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第七百八十三話 二つの嵐

 ドーブがため息混じりにそう告げた瞬間、突然デルキアが鬼のような形相でくるっと振り返った。


「誰が同じ容姿だっ!!どう見たって違うだろっ!!双子だから多少似てはいても明らかに違いってもんがあるだろうがーーーーっ!!!」


 するとデルキアと対立していたカリンも、ドーブに向かって凄まじい勢いで捲し立てたのだった。


「この馬鹿者ーっ!!同じな訳がないでしょうがっ!わたしの方がこんなちんちくりんのへちゃむくれよりも何百倍も可愛いに決まっているでしょうがーーーーーーっ!!!」


 するとデルキアがこれにすかさず反応し、すぐさまカリンに向き直って無益な諍いを再開したのだった。


「お前よりわたしの方が何千倍も可愛いわっっっ!!!だいたいなんだその髪型!ツインテールというものはな、このわたしくらい可愛い者だけが出来る至高の髪型なのだ!!お前のようなぶさいくがして良い髪型ではない!!」


「どあほーーーっ!!あんたよりもわたしの方が何万倍も可愛いに決まっているでしょうがーーーーーーっ!!ていうかあんたこそ何ツインテールにしてるのよっ!あんた風情が似合うわけないのに恥ずかしくないの?この愚か者がーーーーーっ!!」


 デルキアVSカリンの嵐の如き戦いは再び止めどなく続いた。


 ドーブは一旦自分に降りかかりかけた火の粉が、突風によってどこかに飛ばされたことに内心ホッとしていた。


「……助かったな?だがどうする?このままずっとこの姉妹喧嘩を見続けるのか?」


 シェスターがドーブの肩にポンと手を置きつつ問うた。


「……止める手立てはない。待つしかあるまい……」


 シェスタ-はドーブの回答に呆れ顔で大きくかぶりを振った。


 すると突然、シェスターの真後ろから声がかかった。


「……さすがに飽きたな。いい加減にしてもらわねばな……」


 シェスターの肩越しから声を出したのは、メノンティウスであった。


 メノンティウスはゆっくりとした動作で静かに前へ出た。


 そして角突き合わせて争う二人の真横に立ったのだった。


「そこまでだ。姉妹喧嘩は他でやれ。わたしはお前たちに用はない」


 するとデルキア達の諍いが瞬間的にビタッと止まった。


 そして二人同時にゆっくりとした動作で首を巡らし、メノンティウスをじとーっとした目で同時に睨んだ。


「「何だお前は?」」


 さすがに双子だからか、二人の声は完全にシンクロしていた。


 だがメノンティウスはまったく動ぜず、すぐさま二の矢をつがえてたちまちに放ったのだった。


「もう一度言おう。お前たちに用などない。わたしが用があるのは……アスタロトだ」


 すると突然、広大な大広間に凄まじい突風が吹きすさんだ。


 それはさながら春の嵐の如き暴風であった。


 シェスターたちは突然の出来事に驚き、慌てて身体を反転させたり腕で顔を覆ったりといった防御態勢をとった。


 すると突風は次第に治まり、辺りはまったくの静寂に包まれた。


 シェスターはいぶかしそうな顔で身体を元に戻し、と同時に顔を覆っていた腕をゆっくりと下ろした。


 するとそこには、この世の者とは到底思えぬ見目麗しい美男子が、微笑を湛えて静かに佇んでいたのであった。

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