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転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~  作者: マツヤマユタカ
第二章 エスタ戦役~ロンバルド・シュナイダーの戦い~
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第七十六話 苦闘

 1



(これでは魔法を繰り出す余裕などないな……)


 シェスターは対峙するロムスの一挙一動を注意深く見守りながら、次なる一手をどう打つかを冷静に考えていた。


(弱い魔法ならともかく、一撃必殺のでかいのを練るのは到底無理だな)


 シェスターの考えるとおり、魔法を打つにはまず気を練る必要があった。


 だが今シェスターの眼前には油断のならない相手が牙を()いて身構えている。


 これでは充分に気を練ることなど出来はしなかった。


 つまり威力が小さい魔法なら打てないこともないが、一撃でロムスを倒せるような強力な魔法はこの状況では打てないということであった。


(……剣で倒すよりほかないのか……)


 シェスターは頼みの剣を固く握りしめて覚悟を決めると、一つ大きく深呼吸をしようとした。


 深呼吸は息を整えるだけでなく、気持ちも整える効果がある。


 ロムスはそれを嫌ったのだろう、シェスターの呼吸にあわせるようにいきなり仕掛けた。


 シェスターは思わずハッと息を止め、ロムスの剣先をじっと凝視した。


 するとロムスは何度も剣先を上げ下げすることでフェイントをかけ、シェスターの視線を大いに惑わせた。


 シェスターはそれがフェイントでしかないと判ってはいたが、とはいえそれに反応しないわけにもいかずいちいち剣を合わせて対応するしかなかった。


(やはり剣技では奴のほうが一枚上手か。ならば防御に徹しつつ、少しずつ気を練るしかあるまい)


 シェスターはいずれくるであろうロムスの本気の打ち込みに備えつつ少しずつ気を練るという根気の要る作業に入る覚悟を固めた。



 2



(ふん。野郎、少しずつ気を練っていやがるな。そうはさせるか!)


 ロムスはついに本気で打ち込みを開始した。


 ロムスが使う剣は、シェスターやロンバルドが使う重量感のある直刀ではなく、しなやかに反り返る薄くて軽い曲刀であった。


 そのためロムスの繰り出す斬撃は、凄まじく速い連撃となった。


 一合、二合と刃を交えたシェスターは、すぐに我が身の劣勢を悟った。


(は、速い!……こ、これでは……)


 シェスターはロムスの繰り出す圧倒的な連撃に押され、瞬く間に後退を余儀なくされた。


 そしてロムスは勇躍と次々に刺突を繰り出し、ついにシェスターを追い詰めた。


 ドン!


 鈍い音と共に背中に障害物を感じたシェスターが、ロムスへの警戒はそのままに一瞬だけ後ろを振り返るとそこには、直径十(メルクル)はあるかと思われる大木が後背を塞いでいた。


(まずい!このままでは……)


 シェスターは後背の自由を確保しようと脱出を試みるも、ロムスはそれを許さず先回りしてシェスターを大木に釘付けにした。


「無駄だ。そこからは抜けられねえよ。なぜだかわかるか?……俺がそれを許さないからだよ」


 ロムスは楽しそうにそう言って高笑いをした。



 すると、なぜかシェスターもロムス同様に高笑いをし始めた。


 そしてひとしきり笑い終えると、不敵ににやりと笑って言った。


「ふむ。すでに勝った気でいるようだが、それはまだ早いんじゃないか?」


 シェスターの大胆不敵な言葉にロムスは胡散臭そうな視線を送りつつ言った。


「さも奥の手を隠していると言わんばかりの顔つきだな。……ふん。そんな手に乗るかよ。お前はまだ気を練れてはいないはずだ」


「ほう。そんな決めつけをしてもいいのか?痛い目をみるかもしれんぞ?」


「やってみな。どちらが痛い目をみるか……やってみればわかるぜ」


 ロムスはそう言うとほんのわずか腰をかがめ、と同時にシューッという音を立てながら息を少しずつ歯の隙間から吐き出した。


 その音が途切れた時、この闘いの決着がつくであろうとシェスターは予感していた。

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