第七百七十話 出迎え
「……さて着いたようだ。では行くとするか」
メノンティウスは薄ら笑いを浮かべながら踵を返し、ゆったりとした足取りでもって扉へと向かった。
「……いきなり塀を乗り越えて建物の前に乗り付けるなんて……ほとんど殴り込みだな?」
シェスターが呆れ顔で傍らのレノンに言った。
するとレノンは軽く肩をすくめてシェスターに返答をした。
「さて……わたくしに言われましても、そうされたのはこのドームを動かしているシグナス様ですから……」
「まあ、そうだろうがね。で、我々も外へ出るのかね?」
シェスターが改めてレノンに問うたところで扉が風切り音を立てて開き、メノンティウスが悠然と外へと出て行った。
「そうですね。是非ともそうしていただけると助かります」
「そうか。別にお前を助ける気はないが、他にここですることもないしな……出るとしますか?」
シェスターは憎まれ口を叩きつつロンバルドに問うた。
するとロンバルドはシェスターと目を合わせ、笑みを湛えながらうなずいたのであった。
「では行くとしよう。我らが先で構わんか?」
シェスターの問いにレノンが黙礼した。
シェスターはそれを見て軽く肩をすくめると、ゆっくりとしつつも堂々と歩みを始めた。
そして扉のところまで辿り着くと、外を見渡したのであった。
「……どうやら悪魔たちが大挙してお出迎えのようですよ?」
シェスターは首を横にひねって後ろに続くロンバルドに、自分が見ている光景を説明した。
するとロンバルドは仕方ないさと言わんばかりの顔で肩を大きくすくめた。
「……ま、玄関通らず乗り込んだわけですからね。そりゃまあこうなりますよね……」
シェスターはゆっくりとした足取りで外へ出つつ、目の前に広がる恐るべき光景に嘆息した。
悪魔たちは、先にドームを出たメノンティウスの前面に十重二十重と列をなして対峙していた。
その数、およそ数百。
だが様々な出で立ちの悪魔たちのお出迎えにも、メノンティウスの顔は涼しげであった。
「……雑魚に興味はない……」
メノンティウスはそう呟くと、ゆっくりとした動作で左手を悠然とかざした。
そして手の平をゆっくりと開いて悪魔たちへと向けた瞬間、
辺り一面に閃光がほとばしった。
「な!……なんだ!?」
シェスターはあまりの眩しさに自らの両手で顔を塞いだ。
だがその手の指の隙間から微かに覗き見ると、次第に閃光は収まり始めていた。
そこから数秒、ついに閃光が完全に収束しきると、そこには……
先程数百程もいた悪魔たちのほとんどが吹き飛ばされて、ピンク色の建物にへばりついていたのだった。
「……鎧袖一触とはこのことか……強い……」
シェスターは半ば呆れ気味にそう呟くのであった。




