第七百六十八話 地獄への道は……
「レノン、地獄へ行くのがそんなに楽しみなのか?」
ドームがゆっくりと下降する中、シェスターが眉根を寄せてレノンに問うた。
するとレノンがさも当然だと言わんばかりの顔となった。
「無論です。あなたは興味がないのですか?」
レノンの間髪を入れない返答に、シェスターは意外そうな顔となった。
「いかに無神論者とはいえ、興味がないわけではない。だが敬虔なるゼクス教徒であるはずのお前が、なぜにそんなに地獄へ行くのを楽しみにしているのかは大いに疑問があるのだが?」
「言っている意味がわかりませんね?無神論者の貴方方が地獄に興味がないというのならば判りますが、敬虔なるゼクス教徒のわたしが興味を持つのは実に自然なことではないでしょうか?」
するとシェスターがかぶりを振った。
「普通ならばそうだろう。だが、これから向かう地獄は普通ではない。いや、少し言い方が難しいな……この下にある真実の地獄は、ゼクス教の聖典に書かれている地獄の姿とは大きく異なると聞く。ならばそれは敬虔なるゼクス教徒にとっては由々しき事態ということになるのではないか?」
すると今度はレノンが大きくかぶりを振った。
「どうもあなたは少し勘違いをなされているようですね?わたくしは敬虔なるゼクス教徒ではございますが、別段聖典至上主義というわけではございませんよ?」
「そうなのか?」
シェスターは驚きをもって問い返した。
するとレノンが頭蓋骨に薄皮をかぶせただけのような薄気味悪い顔に、奇妙な笑みを浮かべたのだった。
「ええ。ですので地獄の姿が聖典の記述と異なっていたとしてもわたくしは一向に気には致しません」
「しかし地獄の記述が異なるのならば、聖典のその他の記述も怪しくなってくるのではないか?だとしたらそれは、ゼクス教の教義にとって重大なる瑕疵ということになるのではないかな?」
「そうはなりません」
レノンは微笑みを湛えたまま断言した。
「なぜだ?何故そう言い切れる?」
するとレノンは窓の外を悠然と指さした。
「なぜならばそこに地獄があるからですよ。よろしいですか?たしかに地獄の姿は経典の記述と異なるのでしょう。ですがそんなことは些細なことなのです。重要なのはそこに地獄が本当にあること。そして悪魔もまた、本当に実在するということなのです」
そう言ってレノンは、傍らのメノンティウスをちらと見たのだった。
「……なるほどな。細かいところが違っていたとしても、大枠が合っていれば問題ないと……そういうわけか?」
「その通りです。そこに地獄があり、悪魔もまた実在するのならば……神もまた実在するということになるからです」
「ああ、そうか……大事なのはそこか……」
「当然でしょう?ゼクス教徒にとって神の実在を指し示す事柄を確かめることは最重要事と言えます。それが今、この下にあるのですよ。ですからこの道はわたくしにとっては地獄への道にあらず!この道は神へと通ずる偉大なる道ということになるのです!」
レノンは叫ぶようにそう言うと、恍惚の表情を浮かべて窓の外を見つめるのであった。




