第七十五話 活路
1
「どうやら仕掛けて来そうですよ」
シェスターの言葉通りバッカス兄弟は二人ともに腰をかがめ、いまにも飛び掛らんとするかの如き姿勢となった。
「気をつけろよシェスター」
「ええ。お互いに」
二人がそう言葉を交わした途端、バッカス兄弟が動いた。
しかもロムスだけでなく、レムルスまでもがロンバルドたちに向かって突進してきたのだ。
通常、魔法攻撃を行う者は動かず、その場にとどまったまま攻撃を仕掛けるものだが、レムルスはそうせずロムスとともにロンバルドたち目掛けて向かってきたのだ。
そのためロンバルドたちは意表を突かれた。
「奴ら肉弾戦にでも持ち込むつもりか?!」
「どうやらそのようですね。来ますよ!」
先頭を切って飛び込んできたのはやはりロムスだった。
俊敏な動きでロンバルド目掛けて一気に距離を縮め、あっという間に間合いに入りこんだ。
ロンバルドは両手でしっかりと剣を握り締め、いつでも来いとばかりに身構えたが、ロムスは突然その進路を変え、横のシェスターへ激しく切り込んだ。
「シェスター!」
ロンバルドは驚きうわずった声で相棒の名を叫んだが、当のシェスターはまったく油断などしていなかった。
横殴りのロムスの斬撃をすんでのところでひらりとかわすと、地を這うような下段からの斬り上げをロムスへと見舞った。
だが敵もさるもの、ロムスは身体を大きくひねった状態で地面を力強く蹴り上げて飛び上がり、アクロバティックにシェスターの攻撃から逃れた。
シェスターは振り上げた剣を返して中段に構え直すと、ロンバルドをちらりと見やり大きな声で叫んだ。
「来ますよ!審議官!」
ロンバルドがシェスターの警告に慌てて真正面に向きなおすと、そこには大振りな大剣を頭上高く振りかざし、今にも力一杯振り下ろさんと聳え立つレムルスの大柄な体躯があった。
「ちぃっ!」
ロンバルドは戦いの最中に余所見をしていた己の愚を悟り、自らへの戒めの意味の舌打ちを一つ打つと瞬時に気持ちを切り替え、絶対的な死地の只中のわずかな活路を見出さんとカッと大きく目を見開いた。
すると次の瞬間、ロンバルドの視線はある一点に集中した。
ロンバルドは考えるより早く身体を屈めて膝を折り、力強く地面を蹴ってそのわずかな活路へと飛び込んだのであった。
2
「死ねぇーーー!!」
レムルスは木々を震わすような大音声で叫びながら、頭上に掲げた大剣を渾身の力を込めて力強く振り下ろした。
大剣は空気を切り裂きながら弧を描き、鉄と岩石とがぶつかり合う甲高い音を響かせて地面に深々と突き刺さった。
「……おろ?」
レムルスはその両手に人間の肉を切り裂く鈍い手ごたえを感じず、大いに戸惑った。
すると横からロムスが鋭く叫んだ。
「後ろだ!レムルス!」
レムルスが驚き、慌てて後ろを振り返るとそこには、今にも横殴りに剣を振るわんと飛び掛るロンバルドの姿があった。
「くらえっ!」
ロンバルドは言い様、レムルスのがら空きの横腹に強烈な抜き胴を叩き込んだ。
すると先ほどよりも甲高い、金属と金属がぶつかり合う衝撃音が鬱蒼とした木々の隙間に抜けていった。
「なっ!?」
ロンバルドは抜き胴を打ち込んだ勢いでレムルスの横を駆け抜け、ある程度の距離を取った。
そして自らの両腕が剣を持つのがやっとな程に痺れていることに気付いた。
「……鎖帷子か……」
見るとレムルスの横腹は服が大きく裂け、その隙間から銀色の鈍い輝きが漏れ出ていた。
「お前~~今なにしたんだ~~?」
レムルスが打ち込まれた横腹をさすりながらロンバルドに問うた。
ロンバルドは両腕がまだ痺れていることなどおくびにも出さずに、余裕の表情を浮かべながら言った。
「なに、お前の大きな股の下をくぐり抜けただけさ」
そう言うとロンバルドは得意げにあごをくいっと上げ、不敵ににやりと笑うのだった。




