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転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~  作者: マツヤマユタカ
第二章 エスタ戦役~ロンバルド・シュナイダーの戦い~
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第七十四話 獣の如く

 1



「ちぃっ!なにやってやがるんだレムルスの奴は!」


 ロムスは心底苦々しげに、吐き捨てるように言った。


 それも当然のことであったろう。


 今現在ロムスは対峙するロンバルドを圧倒し、窮地に追い込んでいたのだ。


 しかしここでレムルスを助けに向かえばせっかくの好機が無駄となる上、敵に背を向ける形となって形成が一気に逆転する恐れがあった。


 だがレムルスはロムスにとってはたった一人のかけがえのない肉親であり、見捨てるという選択肢は彼にはなかった。


 そのため彼は苦々しげに吐き捨てることでその鬱憤(うっぷん)を発散すると、危険を(かえり)みることなくすぐさまロンバルドに背を向け、レムルスの元へと一目散に駆け出したのだった。


 すると、そのロムスの迷いのない行動にロンバルドは虚を()かれてしまった。


 無論、ロンバルドとてレムルスの助けを呼ぶ声は聞こえた。


 しかしロムスが自らの危険を顧みず、いささかの躊躇もなくすぐさま反転してレムルスの元へ向かうとは思っても見なかったのだ。


 いずれ助けには向かうとしても、その前にロンバルドに対してけん制として何らかの駆け引きを仕掛けてからだろうと思い込んでいたのだ。


 そのためロンバルドは意表を突かれ、追撃の一歩が遅れてしまったのだった。


(しまった!ロムスめ、ずいぶんと弟想いじゃないか!)


 ロンバルドは胸中で舌打ちをしつつ、遅ればせながらロムスの後を追ったのだった。



 2



「ぐぉぉぉぉーーーー!!」


 レムルスは、敵に追い詰められた獣がときおり発する、辺りを覆う鬱蒼とした木々をも震わすほどの凄まじい咆哮を上げた。


 するとレムルスの両腕はこれまで以上に赤々と光り輝き、自らの限界を超えたこれまでで最も高速の光弾を放ち始めた。


 するとそれまでじわじわとレムルスに向かって近づいてきていたレムルスの炎熱魔法と、シェスターの氷結魔法がぶつかる爆発点が、レムルスの手前三(メルクル)付近でようやく止まった。


 爆発はレムルス側の地面を広範囲に激しく焦がし、反対にシェスター側の地面にはぶ厚い氷の層を形作っている。


 だがこの距離はあまりにレムルスに近いため、爆発による熱風にさらされ彼の顔は汗だくとなっていた。


 両者の魔法によるせめぎあいは一進一退の攻防を繰り広げており、それはしばらく続くかと思われた。


 だがその時、シェスターの背後からロムスが凄まじい速さで襲い掛かろうとしていた。


 ロンバルドはロムスのさらに後方からシェスターに対し大音声で警告を発した。


「シェスター!気をつけろ!ロムスが行ったぞ!」


 シェスターはその声に素早く反応した。


 レムルスへの攻撃を躊躇なくやめるとすぐさま真横に一足飛びに飛び退(すさ)り、地面で一回転して片ひざを付いた状態でぱっと振り向くと、腰にぶら下げた剣を素早く抜き放ってロムスからの攻撃に備えた。


 ロムスは凄まじい速度で近づきながらシェスターの一連の流れるような動きを確認すると、シェスターの移動先へ瞬時にその進路を変え、そのままの勢いで飛び掛るようにシェスターへと斬りかかった。


 俊敏な獣が繰り出す爪撃(そうげき)を思わす、上段から力強く振り下ろされたロムスの斬撃を、シェスターは右ひざを付いた姿勢のまま頭上に両手を広げて剣を横たえた構えでしっかりと受け止めた。


 渾身の一撃を受けきられたロムスは、そのままシェスターの頭上を飛び越え、地面で一回転するとすぐさま立ち上がり、態勢を整えるためそのままレムルスの元へと走り去った。


 レムルスはそれを見て自らが一旦窮地から脱したことを悟り、ホッと一息ついた。


「無事か?シェスター!」


 ロンバルドの呼びかけにシェスターはすっくと立ち上がって言った。


「ええ、なんとか」


「すまん。ロムスを留め置くことが出来なかった」


 ロンバルドは本当に申し訳なさそうに言った。


「いえ、それよりあいつは獣みたいな奴ですね」


「ああ。実に俊敏だ。それになんといっても思い切りがいい」


「ふむ。そいつは厄介ですね」


「ああ。己の心の声に従って迷いなく行動するタイプらしい。こういうやつは動きも早いが頭の回転も速い」


「弟のほうは頭も身体も鈍いようですが、火事場の馬鹿力のようなものを最後に発揮しましてね。仕留められませんでしたよ」


「タイプは違うが、どちらも厄介だということか……」


 ロンバルドはおよそ二十(メルクル)先で合流を果たしたバッカス兄弟を睨み据えつつ、この戦いが激しいものとなることを覚悟したのであった。

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