第七百三十六話 ロデムルたちの追跡
1
「……どんどん地下へと降りていってますね?なんでこんなに掘り進めたんでしょうか?」
アジオは、レンガ造りの家の地下から伸びるスロープをゆっくりと進みながら、傍らを行くロデムルに対して疑問を投げかけた。
するとロデムルが、実に思慮深い表情を浮かべながら静かに答えた。
「……掘り進めたにしてはこの地下道、かなり湾曲した形をしております。ですので、これは人為的に掘り進めた地下道ではなく、自然に形作られた洞穴なのではないでしょうか?」
するとアジオが思わずハッとした顔を浮かべ、次いで納得の表情に変わった。
「なるほど~。確かにそうだ。もし仮に人の手で掘ったならもう少し真っ直ぐ掘りますよね。なのにここ、曲がってるわ、でこぼこだわ、ですからね」
「はい。なので恐らくは、元々あった洞穴にあの建物から繋げて出入口を付けたというのが正解ではないかと」
「同感です。まず間違いなくそれですね。しかしそれでも何のためにこの穴が必要だったのかという疑問は解けませんね?」
「はい。意味なく出入口を付けるものはございません。ですので何らかの意図をもっていてのことであるのは間違いないかと存じますが、その意図は今のところ判りかねます」
「ええ、そうですね。まあとりあえずこれまで通り慎重かつ大胆に進むとしますか」
するとその時、ロデムルが前方を鋭い視線で注視した。
「……なにやら黒い建物のようなものが見えます」
言われてアジオも目を細めて遠くを見た。
するとロデムルの言うとおり、建物らしきものがアジオの視界にも飛び込んできた。
「ほんとだ!ありますね、建物!よし、とりあえずあそこへ行きましょう。もしかしたらシュナイダーさんたちがいるかもしれません」
「はい。早速参りましょう」
アジオたちは先ほどまでと異なり、足早に黒い建物へと向かうのであった。
2
「……ドア開いていますね?」
アジオは建物に近づくと中腰の姿勢になり、ゆっくりと慎重に近づいていった。
すると傍らのロデムルも、アジオ同様に中腰の姿勢でもってゆっくりと歩み進めていた。
「はい。それに建物の中からは人の気配がしません。無人なのではないでしょうか?」
「……確かに……いや、でも慎重に近づきましょう。もしかしたら待ち伏せなんてこともあるかもしれませんしね」
「ごもっともにございます」
「では慎重に……うん?あれはなんでしょうか?建物の中になにか金属製の棒みたいなものが何本も立っていますけど……」
「どれでございますか?……ん?あれは……檻ではございませんか?」
ロデムルの指摘にアジオが大きくうなずいた。
「間違いない。あれは檻だ。よし、進みましょう」
アジオは先ほどよりも足早に建物へと近づいた。
するとやはり建物の中に金属製の頑丈そうな檻があった。
「……無人ですね。中に入りましょう」
アジオは開かれたドアから勇躍部屋の中へと飛び込んだ。
だがそこには天井から吊られていたと思われる檻だけがあり、肝心のロンバルドたちの姿はなかった。
「……この檻は……なんですかね?」
アジオの問いにロデムルが答えた。
「判りかねますが……恐らくは主人たちを捕らえるためのものだったのではないでしょうか?」




