第七百二十二話 意気揚々
「ほう。千年竜のため……それはやはり千年竜を発動させるためということですかな?」
シェスターが単刀直入に鋭い舌鋒でもってレノンに襲いかかった。
しかし相変わらずレノンはシェスターの口撃など、どこ吹く風と前を向き続けていた。
「さて……それはどうでしょうか。いえ、発動させるつもりがないとは申しません。発動させなければ千年竜は小さな男の子ですからね。ならばこれほど大きな洞穴は必要ないでしょう。ですが……あなたが仰りたいのは、この洞穴で発動させ、地上でひと暴れさせるつもりなのか?ということでございましょう?ならばその答えは否……でございます」
「ほう。それはつまり発動させるつもりはあるが、暴れさせるためではないということですかな?あのエスタの再現をここオーディーンで行おうということではないと、貴殿はそう仰るのだな?」
「ええ、その通りです。地上に出すつもりは……当分の間はございません」
「……ずいぶんと含みを持たせた言い方ですな?その言い方ですと、今はその時にあらず、なれど時が至れば……と仰っているのと同義ですよ?」
「それで結構です。わたくしは、あなたが先程仰られたようにエスタにおいて一度千年竜を発動させております。そしてその後もわたくしが千年竜を手元に置いている以上、その目的は……至極当然にそういうことにございます」
「……結局いつかは暴れさせるのだな?あのエスタの惨劇を繰り返そうと言うのだな?」
シェスターはこれまで冷静にわざと敬語を使って対応していたものの、ついに怒りがこみ上げてきたのか、言葉がだいぶ乱暴なものに変わってきた。
「ええ、いずれは……ですがね」
「……それはここオーディーンでなのか?」
「さあ、それは……どうでしょうか……」
「オーディーンではない可能性もあるのだな?」
「さて、それもどうでしょうかね」
「……つまり肝心かなめのことは教えるつもりはないということか……ならばとりあえず我らをすぐにどうこうするつもりはないということだな?」
シェスターがにやりと笑い、したり顔となった。
するとそれまで意気揚々と後ろを振り返らずにいたレノンが、思わず立ち止まって振り返った。
「どうしてそうなるのですか?なぜわたくしが貴殿らを害しないと思われたのですか?」
「簡単なことだ。もし貴公が我らにすぐに害を為そうと思っていたとしたならば、おそらく全てのことを洗いざらい喋るだろうと思ったからさ」
シェスターは一旦そこで言葉を区切り、レノンの様子をうかがった。
するとレノンは伏し目がちにしばらくの間なにやら思考していたものの、考えがまとまらなかったものか、シェスターに対して先を促すように伏し目がちなまま静かな口調でもって言った。
「……どうぞ、続けてください」
するとレノンに促され、シェスターはにやりと笑いながらさらに言葉を継いだのだった。
「わたしはこれまでの会話などで貴公の性格を推し量っていたのだ。そしてその結果、わたしは貴公の性格をサディストであると断じたのだよ」




