第六百六十七話 呪術
「シルフィーヌ礼拝堂を中心にして六角形に巡らされた地下道か……果たしてこの形状には何か意味でもあるのだろうか……」
シェスターが難しい顔をして静かに呟いた。
するとアジオがふと思いついたように言った。
「……もしかして何か呪術的な意味でも?……」
するとシェスターが何度も小刻みにうなずいた。
「呪術か……かもしれんな。グレン、君は呪術については詳しいかね?」
シェスターはこの中ではもっとも詳しそうな古文書館学芸員のグレンに問うた。
するとグレンは少々困惑気味な表情を浮かべた。
「詳……しくはないですけど……でもこの中では一番詳しいかも……」
するとシェスターが間髪入れずに言った。
「それでいい。さすがにわたしも君が呪術の専門家だとは思っていないよ。判ることだけで構わん。考えてみてくれ」
グレンは机に身を乗り出して地図に覆いかぶさるようにして言った。
「……そうですね……専門外ですので確かなことは言えませんが……六角形に道を配し、角の位置に重要な施設を配置することで、その中心に祀られた者の力を封じるという呪術があったと思うのですが……」
「力を封じる?その呪術は中心にいる者を抑えるためのものなのか?」
シェスターがたまらず問うと、グレンは必死に思い起こそうと身悶えせんが程となった。
「……う~ん……え~と~たしかそうだったと思うのですが……ただそれがどこの呪術だったか……う~ん、思い出せません……」
「グレン、その記憶は古文書館で得たものか?ならば同僚に聞いた話ということなのではないか?」
「……いえ、違うと思います。古文書館には呪術を専門にしている者など皆無ですし……この記憶はもっと前……多分大学時代に得たものだったと思うのですが……」
「思い出せないというわけか……たとえば文献等にあたって調べることは可能か?」
するとグレンは大きくかぶりを振った。
「いえ、調べようにも取っ掛りもないので……」
「……そうか……たしかにそれもそうだな……」
するとそこで二人のやり取りを聞いていたアジオが二人を慰めるように言った。
「まあでもそういう呪術が実際あるわけでしょう?それが判っただけいいじゃないですか。全く何も見当もつかないってよりも遥かにいいですよ」
するとシェスターがうなずいた。
「それもそうだな。そうだグレン。大学時代の記憶というのならその大学へ行けば何か思い出せるのではないか?もしくはその大学で呪術を専門としている者に聞くとか……」
するとグレンが、パンッと大きな音を立てて手を叩いた。
「なるほど!たしかに仰るとおりですね。早速大学へ行ってみることにしましょう。なあに今から向かえば半日で行けます。ですから明日には帰って報告が出来ると思いますよ。では善は急げだ。行ってきます」
グレンは言うなりさっさと踵を返した。
するとシェスターが驚き、グレンを慌てて呼び止めた。
「ちょっと待てグレン。今から行くのか?仕事はどうするのだ?わたしは何も君に無理を……」
するとグレンはシェスターの言葉を遮って言った。
「大丈夫ですよ。さっきも言いましたけど学芸員ってかなり自由なんで」
グレンは言うやすたすたと歩いて部屋を出ていくのであった。




