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第六百二十二話 最高神

「そしてオーガ神は言ったのです。『アウグロスよ、見事であった』と……」


 グレンは手元の『土着神大全』を指でなぞりながら少々芝居口調で言った。


 するとシェスターが少し驚いた顔を見せた。


「うん?それはあれか?初めはアウグロスの天下統一を賞賛するために現れたってことか?」


「はい、その通りです。大陸の全てを隅々まで平定し終えたその夜、オーガ神が突然アウグロスの枕元に立ったのです」


「ふむ……そういえばオーガ神はローエングリンの神だったな……いや違うな、たしか君はオーガ神はダロスの土着の神だと言っていたように思うが……うん?そうなるとおかしいな……この『土着神大全』は正式には『ローエングリン中央部土着神大全』と言うのじゃなかったか?しかもこの時代にはまだローエングリン教皇国は存在しない。その辺のところを詳しく説明してくれないか?」


「ああ~はい、はい、そういえばそうでしたね?ではご説明いたしますと、オーガ神がダロスの土着神と言ったのは、ダロス地域の複数の文献にその名が記されているからです。対して現在ローエングリン教皇国のある地域の文献にはまったくその名の記載がない。ゆえにオーガ神はダロスの土着神と定義しているというわけなんですが……」


「ふむ。どうやら話しには続きがありそうだな?構わん、続けて言ってくれ」


 シェスターに急かされグレンがうなずいた。


「実はそもそもローエングリン地域には古文書がほとんど残っていないんです。まあはっきり言って『これ』以外は……ね」


 グレンはそう言って視線を落とし、自らの手元の『ローエングリン中央部土着神大全』を見つめた。


「なるほど……そしてそれは偽書と疑われている……故に数には入っていないというわけだな?」


「そうなんです……ローエングリン地域の真書と思われている他の古文書には一切オーガ神の名が出てこないため、オーガ神はダロス地域の土着神とされてしまっているというわけなんです」


「しかしこの書には全体の三分の一をかけてオーガ神について記述しているのだろう?そして君はこの書を偽書だとは思っていない。ならばその君の、オーガ神に対する見解というものを聞かせてもらえないだろうか?」


「わかりました。ならば申し上げますが、わたしの見解はいたって簡単です。それはダロス地域、ローエングリン地域に限らず、現在レイダム連合王国が存在するレイダム地域や、多くの小国が肩を寄せ合うようにして集まる沿岸地域などなど、メリッサ大陸の全ての地域を支配する無敵の最高神というのが私のオーガ神に対する見解となります!」


 グレンは息継ぎせずに高らかにそう宣言すると、大きく反り返って沢山の空気を肺に取り込み、次いで口をすぼめてゆっくりと大きく吐き出すのであった。

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