第六百二十話 求婚
「まあそんなわけでオーガ神は彼女を見初めまして、すぐさま求婚するのですが……」
グレンが手元の『土着神大全』の頁を丁寧にめくりながら説明すると、シェスターが驚いた様子であわてて話しを止めた。
「ちょっと待ってくれ!会ってすぐに求婚したのか?いくらなんでも早すぎるだろう?それにそもそも神が人間の女性に求婚するというのはその他の伝承などにも良くある話しなのか?」
するとグレンが実に落ち着き払って順序よくシェスターの質問に答えた。
「そうですね。まず神の求婚についてですが、これは実際良くある話しだと言えます。それも世界各国の至るところで見られる現象ですね。そもそも土着神というのはゼクス教などの唯一神と違い、ほとんど人間と変わらぬ人格を持っているものがほとんどです。しかもかなりわがままな性格を持つ者がほとんどでして、なので今回のオーガ神もずい分と困った神様だなと思いますけど、特に他と比して特別わがままってことはないんです……あ、でも国を丸々消しちゃうっていうのはさすがにあれか……じゃあやっぱり特別わがままな神ってことになるのかなあ……まあそれはともかく人間の女性を神様が強引に奪い去るっていう話しは結構あるっていうことです。それと最初の質問の、会ってすぐに求婚はさすがに早すぎるんじゃないかという話しですが、これも結構良くある話です。他の古文書なんかを見ますと、会った途端に一目惚れして、求婚することもなくそのまま強引に奪い去ってしまうなんて話まであるくらいですしね」
グレンは至極丁寧な回答を長広舌で一気に返した。
「ふむ……よく判った。ではオーガ神が女性を見初めて求婚してからのくだりを改めて頼む」
「はい。オーガ神は彼女に求婚を申し込むのですが断られます。理由は簡単です。判りますか?」
グレンに振られ、シェスターは即座に答えた。
「すでに恋人がいたのだろう?」
するとグレンは満面の笑みを浮かべた。
「その通りです。彼女には互いに愛し合う恋人がいたのです」
「ふむ。だが先程の話しだと、オーガ神登場の前に彼女を巡って各国の王たちが互いに相争っていたのだろう?ならばその恋人というのは……」
シェスターの思考しながらの問いかけに、グレンは何度も大きくうなずいた。
「ええ、ええ、あなたの推察通りですよ。彼女の恋人は……一国の王です」
「やはりか……まあそうなるだろうな。なにせ国王同士で争っているのだからな。一般庶民は到底割っては入れんだろうよ」
「そうですね。しかもこの書には大陸全土を巻き込んだとありますからね。一般庶民なんてとてもとても……」
「ふうむ。しかしそれにしても大陸全土か……となるとその恋人の国王は相当に有力な王だったというわけだな?」
するとシェスターの問いにグレンがにやりと微笑んだ。
「ええ、ええ、有力も有力。相当に有力ですよ。なにせその国王というのは最終的には『王』ではなくなるんですからね」
するとシェスターが訝しげな顔つきとなった。
「『王』ではなくなった?それは一体どういう意味なのだ?」
グレンはシェスターが呈した当然とも言える疑問に、先程からのにやにやをさらに大きくした。
「『王』からその上へと上り詰めたんです。つまりは……」
そこでシェスターがハッとした顔となった。
「『皇帝』となったということか!?」
シェスターの回答にグレンが破顔一笑となった。
「大正解。彼こそは史上初めてメリッサ大陸全土を統一したという原初皇帝アウグロスその人なんです!」




