第五百八十一話 アジオとトランの正体
「……なるほど、やはりあなたは油断のならないお人ですねえ。僕の話を全部聞こうと言っておきながら、少し言いよどんだ隙を見るや、すぐさまこれですからねえ……でもまあいいでしょ。どうせ遅かれ早かれ僕は正体を晒すつもりだった訳ですし……いいでしょう、僕らの正体をお教えするとしましょうか……」
アジオはそこでわざと言葉を区切るとたっぷりとした間を取った。
そして思いっきり口角を上げ、シェスターに対してにやりと不敵に微笑んだ。
そして順々に皆の顔を見回すと最後に傍らのトランと目を合わせ、お互いに軽くうなずき合うと、ついに自分たちの正体について語りだすのであった。
「僕らの正体は……フラン元大司教の正統なる嫡子、エルバ・フラミニ・ラ・フラン大司教の家臣さ」
アジオは悪びれる風でもなく高らかにそう宣言した。
「……あ……え……」
コメットは驚きのあまりよろめき、声にならない程の小さなうめき声を上げた。
すると傍らのバルトがコメットの肩をそっと抱き止め、コメットが倒れ込みそうになるのを素早く防いだ。
「……エルバ・フラミニ・ラ・フランの手の者であったか……」
バルトの律儀にフルネームを言う呟きに、アジオが少し苦笑いを混じえて答えた。
「ああ、そうさ。僕とトランは彼女の命を受け……ま、実際のところは彼女の重臣たちだけれど……ま、とにかく僕らはエルバ嬢の意を受けてコメット、君の警護役として派遣されたってわけさ」
するとバルトがさも驚いたという顔つきとなって、半ば反射的に問うた。
「警護役じゃと!?」
するとそれにアジオが間髪入れずに即座に返した。
「そうさ。元々僕らは警護役として君たちの元へと派遣されたんだよ」
「……それはまことの話か?」
バルトが疑いの眼差しでもってアジオをきつく睨みつけた。
だがアジオは決してうろたえることもなく、バルトの視線を真正面からまともに受け止めたのだった。
「本当の話しさ。嘘偽りなくね」
アジオの真剣な眼差しを受け、バルトが大きくうなずいた。
「ならばいいだろう。ともかく今のところは信ずることとしよう」
するとアジオがいつもの調子に戻って肩をすくめながら道化た口調でもって言った。
「おいおいおい、今のところはってことは本心では信じていないってことじゃないか。ひどいなあ、僕がこれだけ真面目に真剣に話したっていうのにさ。全然信用ないんだなあ~」
するとバルトが真面目くさった顔でニコリともせずに言った。
「当然だろう。お前たちはつい先程までエルバ・フラミニ・ラ・フランの手の者であることを隠していたのだからな」
バルトの当然とも言える指摘を受け、アジオは苦笑混じりに肩をすくめた。
そんな二人のやり取りを、シェスターが冷徹な眼差しでもって静かにじっくりと観察していたのであった。




