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第五百七十五話 アジオとバルトの対立

「……お金?……あの……僕、お金なんて全然持ってないですけど?……」


 コメットが狐につままれたような顔で言った。


 するとアジオが肩をすくめながら言った。


「君の貯金額がほとんどないのは僕も知っているよ。でもね、そうじゃない。そうじゃないんだ」


「……はあ……じゃあどういう意味なんですか?……」


「うん……実はね……君の身体には秘密があるんだよ……」


 するとコメットがびっくりした顔となった。


「えっ?秘密?僕の身体に?えっ?どういうこと?……」


「驚くのも無理はない。君は知らないことだからね……」



 すると突然バルトが恐ろしげな面相となってコメットを庇うようにして、一歩前に飛び出した。


 そして正面のアジオを、視線で射殺すかと思うほどに強烈に睨みつけた。


「その秘密、確かにコメット様はご存知ないことだ。だが……なぜお主がそのことを知っているのだ?心して答えよ!アジオ!!」



 バルトの突然の剣幕にコメットは驚き、にらみ合う両者の顔を交互にみやってオドオドとした。


「……あ、いや……その……バルト……」


 するとバルトが、動揺するコメットを気遣った。


「コメット様、突然怒鳴り声を上げまして申し訳ございません。ですが……ここはしばらくこのバルトにお任せいただきますようお願いいたします」


 バルトの有無を言わせぬ物言いに、コメットは萎縮して後ろに一歩後ずさった。


「……う、うん……わかった……」


 するとそれまで能面のように表情を表さずにいたアジオが口角を上げて、にやりと微笑んだ。


 バルトはその笑みを見るや、見たこともない凶悪な面相となった。


「……なにが可笑しいのだ……アジオよ……返答次第によっては貴様……覚悟せい……」


 バルトの低く厳かな脅迫めいた文言に、アジオは笑みはそのままに肩をすくめた。


「……怖いなあ……そういえばバルト、僕らがこうして対峙するなんて初めてだね?」


「だからどうだと言うのだ?そのようなことどうでもよい。答えよアジオ、貴様なぜ笑う?」


 するとアジオが笑みを引っ込め、真剣な表情となった。


「わかったよ……トラン、こうなっては仕方がない。話すよ?」


 アジオはそう言って傍らのトランに同意を求めた。


 するとトランは厳しい表情で大きくうなずいた。


「……ああ。仕方がないな。任せる……」


 トランはそれだけ言うと瞑目し、押し黙った。


 アジオはその様子を見てまた微かに微笑んだものの、すぐに笑みを引っ込めて真正面のバルトへと向き直った。


「……ではトランの同意も得たところで……僕らの正体を晒すとしましょうかね……」


 アジオはそう言うと、少し視線を外した先にいるシェスターを捉えた。


「ああ、すみませんねシェスターさん。さっきから蚊帳の外にしてしまって……バルト、すまないが僕らの正体を晒す前に、シェスターさんたちに色々と説明してもいいかな?今のままではコメットも何が何やら訳が判らないだろうしさ?」


 するとバルトがほんのわずか顔をしかめたものの、静かに小さくうなずいた。


「ありがとう。ではシェスターさん、ロデムルさん、そしてコメット……少々説明をさせてもらうよ」


 アジオはそう言うと静かに息を吐き出し、眦を決して話し始めるのであった。

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