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第五百七十二話 コメットの釈明

「……それは……」


 アジオが息を飲み、言い淀んでいると突然、その背後から叫びだすものがいた。


「僕を守るためです!」


 その声の主は気弱なはずのコメットであった。


 コメットは勢いよく立ち上がると、必死な形相でアジオを擁護すべく雄弁に語りだした。


「アジオは悪くないんです!ただ僕を守ろうとしただけなんです!たしかに嘘を吐いたことは良くないことです。軍を除隊させられ、路頭に迷っていた僕らを雇い入れてくれるという人に対して嘘を吐くなんて最低の行為です。本当にごめんなさい。でもそれはすべて僕のためなんです……」


 わずかな時間ながらもコメットの性格をかなり気弱であると断じていたシェスターは、少なからずこの行為に驚いた。


「……ほう。中々に意外な反応だな……だがそれはこの際置いておこう。コメット、君を守るためにアジオが嘘を吐いたと言うが、その意味を教えてもらおうか?」


 シェスターは一生懸命に仲間を守ろうとするコメットに対し好感を持ったものの、追求の手を緩めるわけにもいかずに鋭い視線そのままに厳しい口調で問うたのであった。


「……はい。それは僕がフラン元大司教の庶子だからなんです!」


 コメットは意を決して、という感じで決然と言い放った。


 だがそれはすでにアジオから聞いている事柄だったため、シェスターは肩透かしを喰わされ軽く頬を引き攣らせた。


「……それはすでに知っている……アジオから聞いてな……」


 するとコメットは心底驚いたという顔付きとなった。


「えっ!?そうなんですか!?えっ!?アジオ言っちゃったの!?」


 するとアジオが呆れたように言った。


「……そりゃ言うよ。だってそのことは隠したってしょうがないことだからさ。いいかい?六年前のあの事件は教皇の息子が、大司教の息子がいる親衛隊が守っているにもかかわらず、ほとんど一人だけ死んだことでかなりセンセーショナルに新聞なんかで扱われたんだよ。だからヴァレンティンの人は知らないだろうけど、ローエングリンの人間なら誰だって知っているようなことなんだ。だからそれを隠したところですぐにバレてしまって意味がないってことなのさ」


 するとコメットがさらにびっくりしたような顔付きとなった。


「……そ、そうなの?そんなに有名な話しになっちゃってるの?……」


 するとそれまで静かに黙りこくっていたトランが、たまらず口を挟んできた。


「……お前、本当に知らなかったのか?……」


「……し、知らなかった……そんなことになってるなんて……」


「相変わらずだなあ、お前は。そりゃまあ顔が知られているって訳じゃないが、話しとしては超がつくほど有名だぜ?」


 するとアジオがトランの言葉を受け継いだ。


「そうそう。まあいくつかの新聞に似顔絵が描かれていたけど、人物を特定出来るほど似ていた訳じゃないし、町中歩いていても指を指されるようなことはないだろうけど……それにしても知らなかったとはね……君、六年前相当な有名人だったんだよ?」


 コメットはショックを受けたのかがくんと膝から崩れ落ち、先程まで腰掛けていた椅子の上にどかっと座り込んだ。


 アジオとトランはその様子を見て互いに顔を見合わせ、笑顔となって肩をすくめた。


 だがシェスターは違った。


「ふむ。つまりコメットは勘違いをしていたというわけだ。それは結構。では改めて問おう。アジオ、

何故君は嘘を吐いたのかね?」


 シェスターは再び眼光鋭くアジオを見据えるのであった。

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