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第五百七十一話 追求

「トラン君、なぜここタルカの町の地下水路が危険だと言うのかね?」


 シェスターが素知らぬ顔でトランに尋ねた。


 するとトランはさも当然だといわんばかりに説明し始めた。


「そんなの決まっているでしょう?例の子供魔導師が……」


 トランはそこまで言って、ようやく自らの失態に気付いた。


「……ああ、いや、そのう、子供の頃から地下水路なんかには行っちゃいけないよって、親とかに言われたことあるでしょ?なあアジオ、あるよな?お前の母さんとか結構小言多かったしさ……」


 トランはまたも自ら慌てて墓穴を掘ったことを悟り、恐る恐るアジオの方を振り返った。


 するとアジオはもうすでに腹をくくったような顔付きとなっていたのだった。


「アジオ君、君とトラン君は親衛隊で出会ったと言っていたが、それは嘘だね?」


 シェスターが実に落ち着いた声音で尋ねると、アジオはこくりと静かにうなずいた。


「ええ、あれは……嘘です。お察しの通り僕とトランは小さい頃からの幼馴染です」


「出身地はエルバ村だったかな?それは間違いないのかね?」


「ええ、そこに嘘はないです。あまり多くの嘘を重ねるとすぐにバレちゃいますんでね……といっても今回はかなり早めにバレちゃいましたけど……」


「嘘を吐くなら、百の真実の中に一つだけ隠せ、というからな。君の言うとおりいくつもの嘘を重ねてしまってはすぐにバレてしまうというのは正しいと俺も思う。だが結局君は嘘を重ねてしまった。だからすぐにバレたのだ」


「いやあ、そうはおっしゃいますが、あなたは最初から我らを怪しみましたよね?普通あんなに早い段階で怪しんだりしませんよ。やはりあなたは恐ろしい人ですね」


「そんなことはないさ。さてアジオ君、いや君たち全員に問おう。君たちがこの町に来たのは初めてではないな?」


 シェスターは鋭い視線でもって四人を順々に差し貫いた。


 するともっとも精神的に弱いと思われるコメットが勢いよく立ち上がり、深く頭を下げながらあっさりと嘘を吐いていたことを認めた。


「すみませんでした!あなたの仰るように僕らがこの町を訪れたのは初めてではありません」


 するとアジオがそんなコメットを宥めるように声をかけた。


「コメット、いい。座ってくれ。嘘を吐くように指図したのは僕だ。君は謝らなくていい」


 そう言うとアジオが神妙な顔をして立ち上がった。


「シェスターさん、ロデムルさん、嘘を付いてすみませんでした。ただ彼らは責めないでください。すべてこの僕の指示なのですから……」


 アジオはそう言って深々と頭を下げた。


 するとシェスターが鋭い視線はそのままに、アジオへ向かって静かな声音でもって問い質した。


「なぜ嘘を吐いた?その理由を聞かせてもらえるかな?」


 シェスターの問いは静かで実に落ち着いたものであったが、この場にいる者全員が緊張で身体が強張るほどの凄みを伴っていた。


 そのためアジオの額からは一筋の汗が頬を伝って流れ落ちるほどであった。


「……それは……」


 アジオはゴクリとつばを飲み込み、一拍間を空けてから改めて口を開こうとするのであった。

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