第五百五十五話 編入
「そうか。君はローデンの近くのエルバ村の生まれなのだな。ではトランはどこの生まれか知っているかね?」
シェスターがさりげない感じで尋ねた。
するとアジオはとぼけたような顔となった。
「……さあ……どこだったか……話したことがあったかもわかりませんが、忘れましたね」
アジオの物言いは、すっとぼけているのか、それとも本当に知らないのか、シェスターには判別がつかなかった。
「……そうか。なら人となりはどうだ?君はさっきトランはああ見えて考えが深いと言っていたが、それはどういったことで感じたのかね?」
「う~ん~特にこれといった出来事があったわけではないんですよね。親衛隊に入隊したのが同期だったので、すぐに仲良くなって色々と話しをするうちに感じたということなので……」
「君とトランは同期入隊だったのか?」
「ええ、そうですよ。言ってませんでしたっけ?」
「ああ、聞いていないな。いつ頃入隊したのかね?」
「六年前ですよ。あのエスタ戦役の直前に僕らはゴルコスの親衛隊に抜擢されてしまったんですよ」
これにはシェスターも驚きを隠せなかった。
「そう……だったのか……。それは……運がなかったな……」
シェスターは驚愕の表情を浮かべながら搾り出すように言った。
するとアジオは、シェスターの深い動揺に気付いたのか、訝しげな表情を浮かべたのだった。
「どうかしましたか?そんなに驚くことかな~。まあそうか、確かにかなり運が悪いことは間違いないですもんね」
アジオはそう言うと、身体をひねって改めてシェスターの顔を覗き込んだ。
シェスターは内心の動揺を悟られまいと、必死に表情を戻した。
「ああ、びっくりしたよ。そんな不運はそうそうあるものじゃない。それも君だけではなくトランもなのだろう?三十人の親衛隊の内、二人もがあのエスタ戦役の直前に編入していたなど中々あるものじゃないと思ってね」
するとアジオが少し困ったような表情となった。
「……いや、僕とトランだけではありませんよ?」
シェスターは驚き、思わず咄嗟に聞き返した。
「他にもいるのか!?」
シェスターの問いにアジオは大きくうなずいた。
「ええ、コメットとバルトの二人ですよ」
シェスターは驚きのあまり二の句が告げなかった。
「……そうなのかね?君たちは四人が四人ともエスタ戦役の直前に親衛隊に編入されたと言うのかね?」
「ええ、そうです。僕ら四人はまったく同時に親衛隊に編入されました。ですから彼ら三人と僕が初めて会った場所は、ゴルコスと面通しをするため集まった、帝都オーディーンにある軍司令部内の控え室だったんですよ」
アジオの告白にシェスターは内心で大いに驚いた。
だがそれをアジオに悟られてはいけないと、シェスターは必死に平静を装おうとした。
そして、シェスターは驚きを噛み殺して、深く思考を走らせるのであった。




