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第五百四十一話 華美贅沢

「シェスター様、旦那様より一報が参りました」


 シュナイダー家の家令にして常に冷静なロデムルが、いつもどおりの低い落ち着いた声音でもってシェスターへと話しかけ、手に持った封書をすっと差し出した。


「来たか」


 シェスターは短くそう言うと、受け取った封書の上部を器用に破き、中から一枚の便箋を取り出して素早く紙上に目を走らせるのであった。


「……やはりアルス、オルテスの捜索を優先するように、とのことだ」


 シェスターは目の前のロデムルだけではなく、傍らに控えるカルミスに対しても聞こえるように言った。


 するとカルミスが不安そうな眼差しでもってシェスターに問うた。


「……しかし、どのように捜索すればいいのか……もうかれこれ一週間以上経っていますが、皆目二人の足取りが掴めないのですよ?……」


「……そうだな。もうまもなく親衛隊の者たちも捜索を終えて戻ってくる頃だ。そこで夕食でも取りながら今後の方針について決めることとしよう」


 するとロデムルが軽く頭を下げ、畏まった口調でもって言った。


「それではわたくしは夕食の準備に取り掛かりたいと存じますので、失礼いたします」


「ああ、よろしく頼む。いつもすまんな」


「いえ、皆様方のお食事のご用意をさせていただくのもわたくしの重要な仕事の一つですので」


 ロデムルはそう言い残して静かに退室していった。


 するとその背を見送ったカルミスが部屋の作りを見回しながら言った。


「ところでこの家、相当高いんじゃないんですか?捜索に拠点が必要なのはわかりますが、別段これまで通りホテルでもいいのでは?」


 するとシェスターが肩を軽くすぼめながら返した。


「捜索期間が長引けばホテルの方が高くつくぞ?いや、もうすでにかれこれ一週間だ。人数の方もすでに二十人を超えた。こうなるとホテルよりも家を借りた方が安いさ」


「確かにそうかもしれませんが、これほど豪華な邸宅である必要はないでしょう?」


「いや、普通の邸宅で毎日ニ十人以上の人間が頻繁に出入りし続ければ多いに目立つ。それは避けねばならん」


「なるほど、そういうことですか……しかしここまで大きくなくとも……高いでしょう?」


「そうでもない。ここオーディーンは今も少しずつ郊外に向けて拡張し続けている都市だ。だからそれほど地価は高くないのだ。もっとも中心部となれば相当に値段が跳ね上がるが、この辺はほぼ郊外に近い閑静な住宅街だからな、そうたいしたことはないのさ」


「へえ、そうなんですか……」


「そうなのかって……お前、ついこの間までこの帝都で働いていたんじゃなかったのか?」


「いやまあそれはそうなんですが……わたしは魔導師とはいえ、立場的にはただの公務員ですからね……普通に官営宿舎に入居していたので、そういうことには疎いのです」


「そういえばお前、外務局の外事課だったか?ならば高級官舎に入っていたんじゃないのか?」


 シェスターがからかうように言った。


 するとカルミスが躍起になってそれを否定した。


「そんなことはありませんよ!わたしは敬虔なゼクス教徒ですよ。必要以上の華美贅沢は一切しません!」


 シェスターはカルミスの反応に驚くとともにその人となりについて好もしく思い、口の端に微かな笑みを浮かべるのであった。

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