第五百三十六話 魔導師の正体
「……そうなのか?」
寂しげに笑うカルミスに、ロンバルドが優しげに問いかけた。
するとカルミスは、口の端をクイッと上げてさらに自虐的に笑ったのだった。
「……まあ、わたしがレノン様のご期待に応えられなかったからなんですがね……それに、そもそもレノン様は自らの胸中を部下に晒したり、相談したりするような方でもないので……」
カルミスはそう言うと自らを納得させるかのように、小刻みに何度もうなずいた。
「しかしそれにしても二人の魔導師か……恐らく一人はシグナス様のことでしょうな。それともう一人は、たぶんガイウス君が言っていたメノンティウスという悪魔のことではないですかね?……」
ロンバルドは、カルミスの発した言葉の最後に出てきた恐るべき単語に、思わず軽いめまいを覚えた。
「……今、悪魔と言ったか?……」
ロンバルドは右手で両のこめかみを抑えながらカルミスに問うた。
するとカルミスは、さも当然と言わんばかりに返答をした。
「ええ、ガイウス君が言っていたんです。シグナス様よりも強いガイウス君よりも、さらに強い悪魔なのだと」
「……いや、その……その……シグナス様というのは?……」
「わたしのかつての師匠でもある大魔導師です」
「……そうなのか……その大魔導師よりもガイウスは強いのか?……」
「……ええ、遥かに。もっともシグナス様はわたし同様、攻撃魔法はあまり得意ではないので仕方のないことではありますがね」
「……ガイウスは……攻撃魔法が得意なのか?わたしも一応魔法は使えるのだが、ほんのわずかに治癒魔法が使えるだけで、攻撃魔法などまるで……ちなみに妻は魔法はまるで出来ないのだが……」
「突然変異なのではないですか?まれにあることです。そもそも大魔導師の親が必ず大魔導師ということはないですからね。大なり小なりそういうことはあると思います」
「……そうか……ところで、その二人の風貌はどんな感じなのだ?」
「シグナス様は老人です。メノンティウスの方はわたしは会ったことがないので詳しいことは判りませんが、ガイウス君の話だと老人の時もあれば、若い男の時もあると言っていましたが……」
するとロンバルドが突然大きな声を上げた。
「それだっ!アルスは言っていた。ふたりの魔導師は老人と若い男だったと!しかもふたりの間の主導権を握っていたのは、いつも若い男の方であったと!」
するとカルミスが何度も小刻みにうなずいた。
「……それならばガイウス君の話しと合致します……ガイウス君はそのメノンティウスという悪魔はシグナス様の師のような間柄に見えたと言っていたので」
「……ふむ。ならばその二人で間違いないだろう。シグナスとメノンティウスか……」
ロンバルドはそう言って大きくうなずくと、二人の大魔導師の名を自らの脳裏に深く刻み込むのであった。




