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第五百三十四話 信徒

 1



「……それではまるで……あの洋館と同じじゃないか……」


 ロンバルドのうめくような呟きに、カルミスが反応した。


「……洋館?……なにか心当たりでもおありか?」


 カルミスの問いに、ロンバルドが小刻みにうなずきながら答えた。


「……ああ、おそらくは同じようなものを見た。ある洋館でな……」


「……それは……一体どのような?……」


 するとそこでロンバルドは覚悟を決めたのか大きくうなずいた。


 そして自らの後背に立つロデムルを手招きしてなにやら耳打ちすると、おもむろにソファーに座り直して威儀を正した。


 ロンバルドはロデムルが部屋を出て行ったことを確認すると、真正面からカルミスを見据えてエルの消息について詳しく説明をしだすのであった。



 2



「……なっ!……それでは猫王エルも!?」


 カルミスは驚きのあまり後ろに倒れんばかりに仰け反った。


 そして飛び出さんがほどに目を剥き、両手足を前に伸ばして固まった。


 ロンバルドは、カルミスのあまりにもな驚き様に返って自分が驚いたものの、信徒とはこういうものかと思い直して納得した。


「……そういうわけでエル様は今、ここにはいないという訳なのだ……」


 するとカルミスの、力が入っていたことにより固まり伸びていた四肢から一気に力が抜け落ちた。


 そのためカルミスの四肢は自らの意思とは関係なく勢いよく落下し、ソファーや床にドサッという音を立てて落ちたのだった。


 そして同時に頭をガクンと垂らして、糸の切れた操り人形の如き有様となったのであった。


 ロンバルドはそんなカルミスを見て、再び宗教を信ずる者たちについて考えさせられるのであった。


(……なぜここまで人は神を信じられるのか……。いや、確かにわたしもエル様と出会った以上、その存在を疑わなくなった。だが……わたしは神を無条件に信ずる気持ちにはなれん。なぜなら神が善なる者である保障はないと思うからだ。だが多くの人は……無条件に神を信じている。それも善なる神を信じている……なぜだ?なぜ会ったこともないのに信じられるのだ?たしかにゼクス教の聖典などには色々と神の事蹟が載ってはいる。ダロス教の聖典にも、その他の宗教の聖典にも……。だがそれらも自分で見たわけではない。あくまで他人が書いたものだ。それに……神の事蹟が多すぎる。あまりにも色々な宗教がありすぎて、どれが正しく、どれが偽物であるかなどどうやって判断すればいいというのだ。もし仮にすべての宗教が正しく神の事蹟を表しているというのなら、矛盾点が多すぎることになる。それぞれの神の事蹟が重なってしまっているからだ。明らかに二つの事蹟が重複した結果、あちこちで矛盾が生じているからだ。なのになぜ……人は無条件で神を信じられるのか……)


 ロンバルドは打ちひしがれるカルミスを眺めながら長考を重ねた。


 だがその結論は、未だ出せずにいるのであった。

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