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転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~  作者: マツヤマユタカ
第二章 エスタ戦役~ロンバルド・シュナイダーの戦い~
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第四十九話 それぞれの思惑

「しかしコリン、俺たち二人だけでは分が悪いぞ」


 エドバーグは大層不安げに傍らのコリンに(ささや)いた。


「ああ、もちろん二人だけでは無理だ。仲間を増やさないと……」


 ゴルコス将軍の亡骸(なきがら)を秘密裏に弔うため、最も近場で埋葬に適すると思われるルーグの森へと向かう一行の最後尾で、コリンは逆撃態勢を取るべく思案を重ねていた。


「誰を仲間にするつもりなんだ?」


「当然腕の立つ奴だ」


「というと……ガンツか?」


「ああ、奴の戦斧の威力は凄まじいものがある。攻撃力だけならおそらくは隊長と同等か、もしくはそれ以上だろう」


「そうだな、だがガンツの奴、果たしてこちら側に付いてくれるかな?」


「大丈夫だろう。次の副長の座をちらつかせてやれば乗ってくるさ」


「ガンツを副長に?」


「ああ。エドバーグ、あんたが次の隊長。ガンツが副長だ」


「コリン、お前が副長になるんじゃないのか?」


「いや、俺には副長なんて務まらないさ。俺は皆に(うと)まれているからな」


「コリン……」


「気にするなよエドバーグ。俺は不正を正せればそれでいいんだからな」


「そうか、判ったよコリン。まあガンツの奴に副長が務まるとは思えないが、確かに副長の座をちらつかせれば乗ってくるだろうな。副長になれば給金が違う。女好きであちこち遊び歩いて始終金欠になっているガンツの奴ならたまらず乗ってくるだろう」


 エドバーグはそう言うと納得の表情で何度もうなずいた。


 先刻、さも不正を赦すまじとコリンの話に乗ったように見せかけたエドバーグだったが実のところはそうではなく、エドバーグこそが隊長の給金に心引かれていたのだった。


 なぜならばエドバーグには家庭があった。


 夫婦円満で笑顔の絶えない温かい家庭があった。


 だが、少々円満すぎたのかもしれない。


 いつの間にやら気がつけば七人もの子供を抱え、さらには愛しの妻のお腹の中には、今まさにまた新たな命が芽吹いていた。


 これでは他の隊より幾分恵まれた親衛隊員とはいえ、平隊員の給金では生活は苦しい。


 だが隊長ともなれば給金は二倍となる。


 充分ゆとりを持った生活が出来るようになる。

 

 これがエドバーグが叛逆に加担する本当の理由であった。



「他には誰を味方に引き込むつもりなんだ?コリン」


「ああ、そうだな……やはりあの兄弟だろう……」


 するとエドバーグは反射的に飛び上がらんばかりの勢いで、コリンに詰め寄った。


「おい!ちょ、ちょっと待てよコリン!あの兄弟ってまさかバッカス兄弟のことじゃないだろうな!」


「なあエドバーグ、隊内に他に兄弟がそろってる奴らなんていないよ。だからあの兄弟と言えば、もちろんあのバッカス兄弟のことさ」


「コリン。なあ、おいコリンよ。バッカス兄弟はダメだ。あいつら何考えているか判りゃしないぞ」


「いや俺には判るよ。彼らは様子をうかがっているだけだ」


「俺たちの様子をか?」


「ああ、バッカス兄弟はゴルコス将軍が直接雇い入れた傭兵だ。もちろん金で雇われただけだから忠誠心なんてものは微塵(みじん)もない。ただ仕事で護衛をしていただけだ。だが彼らは我々同様、護衛に失敗した。そしてそれと同時に雇い主を失ってしまったんだ。だから今彼らは宙に浮いた存在になっているという訳だ」


「だから……なんなんだよ?」


「俺たちが雇えばいいんだよ。あの兄弟は今、雇い主を探しているんだよ。むろん俺たちには将軍が払っていたような大金は出せないが、彼らだってただ働きよりは少しでも金になったほうがいいと踏むんじゃないのか?数日分の宿代と飲み食い代、それと次の仕事場への足代を合わせた額にちょっと色を付けたくらいの金額なら充分雇えると思う」


「しかしあいつらは……異常者だぞ?」


「判っている」


「本当に判っているのか?奴らはゴルコスの命令とはいえ、多くの者を嬉々として殺してきた。俺たちの目の前でだ。その時の奴等の恍惚(こうこつ)とした表情をお前も何度も見たはずだぞ。奴等は本物の快楽殺人者だ。ゴルコスと同類のな」


「だが腕は立つ。敵に回せば恐ろしいし、味方に付けばこれ以上心強い者たちもいない。それにそんな快楽殺人者だからこそ話に乗ってくると思うんだよ」


「どういうことだ?」


「奴等、将軍をみすみす殺された時は多勢に無勢とおとなしくしていたが、そもそもは人を殺したくって仕方がない連中だ。たとえ微々たる金額だろうと、殺しの理由付けさえしてやれば喜んでやるだろうってことさ」


「たしかに、それはそうかも知れないが……俺はやはり反対だ」


「エドバーグ、無理を言わないでくれ。今は一人でも味方がほしい時だ。ましてや腕の立つ奴ならばなおさらだ」


「しかし、奴らに頭を下げて味方になってくれと言うのか?俺は嫌だぞコリン」


「それは俺がやる。エドバーグはガンツを説得してくれればそれでいい」


「……判ったよ。では他の者たちはどうする?」


「もう間もなくルーグの森に到着してしまう。個別に説得している時間はないだろう。今のところ確実に敵になりそうなのはアルス隊長とその腰ぎんちゃくのゲッツ副長、ヴァレンティンの二人にアンヴィルのロトスの計五人だ。こちらは俺たち二人とバッカス兄弟、それにガンツを味方に出来れば五対五になる。その他の者たちはそもそも空気に呑まれているだけだから、どちらに加担することもなく様子見すると思う」


「そうか、そういうものかもしれないな。だったらコリン、俺はあの厭味(いやみ)ったらしいゲッツ副長と()るぜ!お前も知っての通り、俺はあいつだけはどうにも我慢ならないんだ。いつも隊長の背中に隠れていやがるくせに偉そうに指図しやがって。おべんちゃらだけで副長になった奴のくせにだ!」


「ああ、そういうだろうと思ったよ。副長はエドバーグにまかせる。それとアンヴィルのロトスは怪力だ。同じく怪力のガンツがいいだろう。ヴァレンティンの二人にはバッカス兄弟を当てよう」


「ということはコリン、お前が隊長と()るんだな?」


「ああ、隊長は俺が()る。元々日和見(ひよりみ)主義の人だとは思っていたが、今回の件はさすがに不誠実極まると思う。いくらなんでも暗殺事件をなかったことにするなんて言語道断だ」


「まあ確かに、な」


「いいかエドバーグ。俺は必ずや今回の一件を白日の下に晒し、不正義を(ただ)して正義を()して見せるぞ!」


 コリンはそう言い捨てると強く口を引き結び、(まなじり)を決して前方を悠然と行くアルス隊長に(とが)めるような視線を投げかけた。


 だがエドバーグはそんなコリンを横目に、隊長になった際の皮算用をしてにやにやとほくそ笑んでいたのであった。

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