第四百九十七話 疑惑
「検事正のコッホル氏に言われたんですね?間違いありませんか?」
シェスターはルカク越しに打ちひしがれるコッホルを見下ろしながら、ルカクに再度念を押した。
するとルカクはおどおどとしながらもはっきりとした口調で言ったのだった。
「はい。俺はコッホルさんにはっきりと言われました。俺が罪に問われることは決してないって……」
「わかりました。しかしそうなると少々おかしな点が一つ……コッホル氏はヴァレンティン共和国の検事であってローエングリン教皇国の検事ではない。本来あなたを罪に問う、問わないの話をするとしたらそれはローエングリンの人間のはずです……ルカクさん、あなたを罪に問わないといったのはコッホル氏だけではないんじゃないですか?」
「……はい……確かにコッホルさんにはもう一度確認しようと思って聞いたというか……その前に貴方の言うようにローエングリンで別の人に聞いていました……」
「誰にですか?ローエングリンであなたは一体誰に罪に問われないと言われたのですか?」
「……レノン司教です……」
シェスターは予想通りの名前がルカクの口から飛び出したことでさらに勢いがついた。
「レノン司教ですね!?今回の原告の一人、レノン司教があなたに免罪符を与えた張本人なのですね!?」
「……はい……」
「レノン司教はなぜあなたが罪に問われないと言ったのですか?本来軍から無断で抜け出すことは重罪です。にもかかわらず司教の身でありながらあなたに免罪符を与えた理由はなんです?ルカクさん、はっきりと答えてください!」
「……レノン司教は……この裁判で証言しさえすれば俺の罪は問わないと仰いました……」
「証言しさえすれば!なぜ証言するだけで罪が問われなくなるんですか!?」
「……さあ、それは……俺はただそう言われたからここへ来ただけで……」
「よろしい。とりあえずはいいでしょう」
シェスターは一旦ルカクに対する質問を終えると、勇躍勢い込んで裁判長へと向き直った。
「裁判長!ただいまご覧になられたように、どうやら原告及び検察と、こちらの証人との間には大いなる疑惑があるようです。証言をしさえすれば脱走の罪に問わないとなれば、当然証人はこの裁判に出廷して証言をするでしょう。なにせ証言をしさえすれば自らの罪を相殺してくれるわけですからね。しかしそうなると重大な疑惑が出てきます。つまりそれは、原告の都合のいいようにいかようにも証言をするのではないかという疑惑である!となれば!……」
シェスターは裁判所内のあらゆる人間に対し、鋭い視線で射すくめるようにぐるっと見回した。
そしてさらに追い打ちをかけるように声高に叫んだのであった。
「この証人は無効である!!」




