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第四百九十五話 架空の物語

「つまりルカクさんはこの六年間というもの特に働くこともなく、家の中でじっと読書三昧の日々を送っていたということですね?」


 シェスターは射すくめるような強い視線でルカクを捉えた。


 ルカクは驚き、少々たじろぎつつ答えた。


「……そうだけど……でもそれは俺が脱走兵だからで……」


 するとシェスターの表情が途端に和らいだ。


「いやルカクさん、わたしは別に働かないことを責めているわけではありません。労働の義務のなんたるかを説教しようなんてつもりは毛頭ありません。あなたが隠れていなければいけない状況だったことはわたしも十分承知しています。ですからわたしはただ、あなたが六年間読書をし続けたのかどうかだけを聞いているのです」


「……そうだよ。読書ばかりしていたよ。だって他にすることなんてないし……それなのに読書しちゃいけなかったっていうのかい?」


「いえいえ、そういう意味でもありません。ルカクさん、少しお尋ねしますが、一体どのようなジャンルの本を主に読んでいらしたんですか?」


「……どのようなジャンルって……まあ物語かなあ……俺はあんまり頭のいい方じゃないから難しい本は読めないんで……」


「物語と一口に言っても色々とあります。例えば、歴史物などですか?」


「いやいや、そういうのは何か小難しく書かれているから読めないよ。もっと簡単な……そのう、子供が読むような奴を……」


「なる程、子どもが読むようなというと……例えば冒険物とかですか?」


「そうそう!あとは伝説の話しとかが多かったな。とにかく簡単で長い物を沢山、何度も読み返したりしてたんだよ。もちろん本を読むだけじゃ全部の時間を潰せないから、たまに簡単な大工仕事で椅子を作ってみたり……」


 するとシェスターがルカクの話しを鋭く遮った。


「よくわかりました!つまりルカクさんは歴史物などではなく、架空の物語(・・・・・)ばかりを好んで読んでこられたというわけですね?」


 するとここでシェスターの意図を鋭く察知した検事正のコッホルが叫んだ。


「誘導尋問だ!裁判長、誘導尋問です!」


 するとすぐさまシェスターも裁判長に向き直って叫んだ。


「違います!今のは誘導尋問ではありません!わたしは今、誘導尋問にならぬよう非常に慎重に話しを進めておりました。ですからルカクさんが本のジャンルを仰ったのは決してわたしが誘導したからでなく、ルカクさんご自身が記憶を遡って仰ったことです!そしてルカクさんが好んで読まれた本のジャンルをわたしはひとまとめに架空の物語と表現いたしましたが、冒険物や伝説の話しを総称する場合、普通誰でも架空の物語と表現するのではないでしょうか!?」


 すると裁判長は二人の顔を見比べ、シェスターの顔をじっと見つめて言ったのだった。


「認めます。被告はどうぞ質問を続けてください」


 シェスターは心の中で快哉を叫んだのであった。

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