第四百九十一話 強要
シェスターの舌鋒鋭い攻撃に、コッホルは大いに慌てた。
「いや、ちょっと待て!こちらはそのようなつもりはもちろんない!我らはローエングリン教皇国よりの訴状を受けて起訴したまで……断じて貴様の言うような意図などない!」
「それはどうかな?どうもその証人のルカク氏は、この場の雰囲気に飲まれたのか先ほどから挙動が定まっておらん。それゆえ事前の打ち合わせ通り行かなかったと見えるが……ルカクさん、あなたはその検事にこう言えと言われていたのではないですか?被告人のシェスターが間違いなくゴルコス将軍を刺殺したところを見たと……だがあなたは舞い上がってしまい、ついうっかり刺したところは見ていなかったと言ってしまった。違いますか?」
するとルカクは頭を抱えて声にならない声で悶絶した。
「……い……や……うん……ああ……」
するとコッホルがさらに慌ててルカクの発言を抑えようとした。
「ルカクさんは今大変に混乱している!ここは一旦休廷するようお願い申し上げる!」
コッホルは裁判長に向き直り、大声で休廷を申請した。
だが裁判長は首をゆっくりと横に振り、コッホルの申し出を却下したのだった。
「そういうわけにはいかぬ。もし事前に検事側が証人に偽りの証言を強要していたとしたら、これは大変に大きな問題である。よってその疑念が拭えぬ限り休廷することはありえぬ」
するとシェスターがすかさず裁判長に対して要請した。
「裁判長!ここはぜひわたくしにルカク氏への質問をお許し下さい」
すると裁判長は即座に断を下した。
「許可する」
「はっ。ありがとうございます」
シェスターは悔しがるコッホルを尻目に裁判長に対して感謝の目礼をした。
「それでは質問致します。ルカクさん、ここからは検事側を一切見ずに、わたしの目を見てお答え下さい。よろしいですね?」
するとルカクはおどおどと目をキョロキョロさせながら後ろを振り返って検事側を見ようとした。
すると突然、ルカク目掛けてシェスターの怒号が轟いた。
「見るな!」
ルカクは驚き、ビクリと身体を硬直させ、ゆっくりと再び振り返って正面のシェスターを見ようとした。
すると、さらに驚くべきことにシェスターはとてつもない速さで移動し、ルカクのすぐ目の前へと顔を近づけていたのであった。
突然目と鼻の先にシェスターの睨みつけるような顔が現れたルカクは飛び上がらんばかりに驚き、恐怖のためか小刻みに全身を震わせた。
「見るな……と言っている。いいですね?ここから先は決して後ろを振り返ってはいけませんよ?」
シェスターはおどろおどろしい物言いでもってルカクに釘を刺した。
するとルカクは大人しく何度も首を縦に振ってシェスターに同意をしたのだった。
「よろしい。では改めて……質問を開始します」
シェスターはよく通る張りのある声でもって高らかに宣言をしたのであった。




