第四百八十七話 疑念
「何か言い分はあるかね?」
検事正のコッホルが嫌味ったらしい笑みをその顔に貼りつけながらロンバルドに対して言った。
するとロンバルドは横目でコッホルを睨めつけながら正面の裁判長に向かって声高に叫んだのだった。
「大いにある!このような事前に仕組まれた裁判で語ることなどなにもない!」
すると裁判長が重々しい口調でもってロンバルドに対して詰問した。
「それはどういう意味か?よもやこの法廷を侮辱するつもりではあるまいな?」
「法廷を侮辱したいのではなく、この裁判に関わる者らを弾劾しているのに過ぎん」
「だからそれはどういう意味かと問うておる」
「言わぬでもわかっているはずだ!そもそもこの裁判の開廷を我らが知らされたのは今朝方だ。本来ならば少なくとも数日前に知らされているはずが、今日の今日だぞ?」
すると横から検事正のコッホルが口を挟んだ。
「それはなんらかの連絡不行き届きではないかね?無論、そちら側の……だがね?」
「ふざけるな。お前たちが知らせなかったに決まっている!」
「これはこれは、証拠もなしにそのようなことを決めつけられても困るな」
コッホルは両手を開き、肩をすぼめて言った。
これにシェスターが口撃を加えた。
「検事正は今、開廷の連絡が今日だったと言われ連絡の不行き届きではと仰ったが、普通そんなことを言われたら嘘をつくな!……となると思うのだが?」
「……そんなことはない。まさかこの法廷でそのような子供が付くような嘘は言うまいと思ったまでのこと……」
「いや、違うな。開廷の連絡が今日だったことをあなたが知っていたからでしょう。なぜならばそうなるように仕向けた張本人が検事正、あなただからですよ」
「……もう一度言うが、証拠もなしにそのようなことを言われても困るというものだ。それとも何か?わたしが今朝方に連絡が行くように手配した証拠でも持っているというのかね?」
「証拠はない。だがまあとりあえずは充分だ。検事正、我々が連絡の不行き届きであれ何であれ、今朝方になって初めて開廷の連絡を受けたことは認められますな?」
「……それは……証拠がないな。嘘を言っているのかもしれないし……」
「それは先ほどあなたが否定されたはずですが?」
「……完全に否定したわけではない。そうなのではないかと思ったと言ったまで……」
「そうですか。まあいいでしょう。では裁判官諸氏に申し上げる」
シェスターはそう言うと真正面を向いて裁判官たちに向かって話し始めた。
「我々が本法廷が開廷されることを聞いたのは今朝方です。これは今お聞きの通り、検事正も嘘を言っているようには思わなかったことであります。そしてそれを踏まえて我々は裁判官の皆様に問いたい。いきなり今朝方裁判があると聞かされ、半ば強制的にここに連れてこられた我らがこの裁判をどう思うかを?」
シェスターはここで一旦言葉を区切ると、役者が舞台で見栄を切るように首を巡らして裁判官たちを一人ずつ舐めるように見た。
そしてかなりの間を空け、だいぶ勿体つけてのち静かに口を開いたのであった。
「我々はこの裁判に関わる者全てに疑念を持っています!」




