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第四百八十五話 法曹界

「被害者側……ということは被害者だけではなく、その家族もしくは遺族も含むという訳だな?」


 ロンバルドの問いにシェスターは間髪入れずに答えた。


「はい。連中は犯罪被害に苦しむそれらの人たちを顧みず、自らが接触する加害者の利益ばかりを追求し、その障害となるならばその被害者側を攻撃するようなことまでするのです!」


「ひどい話だな……それでは二次被害ではないか……」


「ええ、全くその通りです。さらにこの連中が始末に置けないのが加害者の人権を振りかざすことなのです」


「しかし人権と言うならば被害者側の人権もあるはずだろう?」


「その通りです。そもそも人権思想とは全ての人間が生まれながらに平等に持っている権利のはず。ならば当然被害者側にもその権利はあるはずなのです。ところが!あろうことかこの連中は加害者側の人権ばかりを言い立てるのですよ!」


「なぜそのようなことを……」


「自分たちが日頃接しているのが加害者ばかりだからでしょう。己の目の前にいる鉄格子越しの哀れに打ちひしがれた加害者の姿ばかり見ている内に、この哀れな子羊を救えるのは自分だけと思い込み、それこそ自分が神にでもなったかのような錯覚に陥り、我こそは正義と被害者側を攻撃するに至るのでしょう」


「また我こそは正義か……」


「早い話が法曹界全体がそういう錯覚に陥りやすい構造になっているのでしょうね」


「……ならば裁判官もか?……」


「おそらくは……」


 するとその時、正面脇の扉が重々しい音を立てて開かれ、中から五人の裁判官と思しき者たちが入ってきた。


「噂をすればなんとやらですな?」


 シェスターが片目をつむりながら言った。


 だがロンバルドはそれには応じず、自らの横の席をじっと見つめたのだった。


「……参ったな……まだ来ないぞ……」


「そうでした。肝心なことを忘れていました……」


「ああ、だが弁護士不在で開廷出来る訳もない。事情を説明してお待ちいただくこととしよう」


 ロンバルドの提案にシェスターもうなずいた。


「ええ、ですが裁判官の心証を悪くしないように出来るだけ下手に出たほうがいいですね。なんならわたしが代わりに申し出ましょうか?」


「ふん。何を言う。俺だってそのくらい出来るさ」


「本当ですかねえ」


 シェスターがからかうように言った。


 それにロンバルドが片眉を跳ね上げて反応した。


「出来るに決まっている!見てろ!」


 ロンバルドはそう言い捨てると裁判官席に向き直った。


「裁判長、大変申し訳ないことですが、いまだ当方の弁護士が到着いたしておりません。もうまもなく到着いたすと思われますので、しばしの間お待ち頂けませんでしょうか?」


 ロンバルドはそう言うと、どうだとばかりにシェスターを見た。


 するとシェスターが肩をすぼめたため、ロンバルドは勝ったとばかりに喜んだ。


 だが次の瞬間、二人は驚くべき言葉を裁判長から聞かされたのであった。


「弁護士が不在とのことだが、それはそちらの不手際によるものであって当方には関係がない。よって定時となったため、本法廷を開廷する!」


 裁判長は重々しい口調でそう宣言すると、手に持った木槌を力強く振り下ろしたのであった。

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