第四百七十一話 潜入
1
「……それで……その転生者というのはただ生まれ変わるだけなのか?」
オルテスの素朴な疑問にエルが少し躊躇しながら答えた。
「……う~ん……まあそこは色々あるのじゃが……一番の特徴は、魔力が強いことじゃな」
「……なぜ魔力が強くなるんだ?」
「……詳しい仕組みはわしもわからんが、生まれ変わっても魔力総量が持ち越されるのじゃよ。だから生を重ねるたびに魔力総量が増大していくというわけじゃ」
「……そうなのか……だからなにかあればガイウスを頼れと言ったのか……」
「うむ。あれの魔力総量はほぼ無限に近い。しかもそれなりに場数も踏んでおるので頼りになろう」
「……そうなのか……ところでガイウスはいくつなんだ?」
「十二歳だったかな?」
「十二歳!?……ああいや、確かにロンバルドの息子として生を受けたならちょうどそれくらいか……」
「あ奴の年齢は有って無きが如しじゃ。見た目は意味を為さん。よいか?くれぐれもわしが一時間経っても戻らなければロンバルドのところへ帰るのじゃ。そしてガイウスの帰りを待て」
「それはわかった……だが神の眷属を名乗るあんたがなんでそんなにレノンを恐るんだ?相手はただの人間だろ?」
するとエルの顔から笑みが消えた。
「……そうじゃな。こればっかりは嫌な予感がするとしか言えん……だがまあ、大丈夫じゃろ」
エルはそう言うと笑顔を取り戻し、努めて明るく笑った。
オルテスはそんなエルの笑顔に心がざわめくのを感じた。
「……嫌な予感がするなら、ガイウスの帰りを待って二人で行ったらどうなんだ?」
するとこれにエルが憤慨する様子を見せた。
「何を馬鹿なことを!このわしがあ奴の手を借りねばあんな館に忍び込むことも出来ないとでも言うつもりか?冗談ではない!わしは神の眷属ぞ!猫王エルぞ!あんな館の一つや二つ、完膚なきまでに調べ尽くしてくれるわ!」
エルはそう言うと決然と振り返って駆け出し、あっという間に館の壁を飛び越えて敷地の中へと入っていった。
残されたオルテスは不安な気持ちを胸一杯に抱えながらも、静かにエルの帰りを待つのであった。
2
エルは四階建ての瀟洒な洋館の、開け放たれていた二階の窓から易々と侵入すると、魔法を使って扉を開きながら次々と二階の部屋を調査していった。
(……妙だな……人の気配がせん……それに人が住んでいるような形跡を感じん……これはもしやすると、すでに引き払った後か?……)
エルは内心多少焦りを感じながらもさらに調査するべく、目の前の螺旋階段を慎重に降りながら一階へとたどり着いた。
(……もしもこの一階に生活臭がなければ、すでに引き払ったものと判断せざるを得んな……)
エルは、二階同様に一階においても魔法を使って扉を開けては部屋へ次々に侵入していった。
だがこれまた二階同様に人が住んでいるような匂いや形跡は感じ取れなかった。
(……やはり気配がない……オルテスの見張りが解けたと判ってその隙に引き払ったといったところか……)
エルはため息を一つ漏らし、ガクリと勢いよく頭を垂れた。
だがその瞬間、エルを取り巻く環境が激変した。
辺りは一瞬の内に暗闇に包まれ、壁も天井もそして床ですらも形を変えて暗闇に溶けていった。
だがエルは自らの身体が突如宙に放り出されたにも関わらず、まったく慌てることなく呟くのだった。
「……ふん。来おったか……」




