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第四百六十話 知名度

「……よし、もうここらでいいじゃろう……」


 エルは大使館に隣接する森の中をひた走りに駆け抜け、自分たちを追う者たちがいないことを確認すると、ようやく足を止めて後ろを振り返り、後に続くオルテスへ向かって言った。


 するとオルテスは肩で息をしながらも、前方の得体の知れぬしゃべる猫に対して警戒レベルMAXでゆっくりと語りかけた。


「……何者だ?あやかしの者なのか?……」


 するとエルは二本足で立ち上がり、不敵な笑みを浮かべて言った。


「そんな安っぽい者ではないな。わしの名は……本名はちと長ったらしいので省略するが、エルという。いわゆる神の眷属にして猫王のエルとはわしのことじゃ!」


 するとオルテスは寄せた眉根をさらに寄せた。


「……神の眷属?……猫王エル?……なんだそれは?」


 瞬間、エルの膝がカクンと折れ曲がった。


「……お、お前……このわしを知らんのか?……ほれ、伝説とかに出てくるじゃろ?……」


「伝説と言われても……俺の家は敬虔なゼクス教徒だったから、ゼクス教の聖典以外は読んではいけないと教育されたんだ。だからいわゆる伝説の類はまったく……」


「……本当にお前、わしのことを知らんのか?……」


「……ああ、すまないが……」


「……そ、そうか……となると話が進まんな……」


「……そう……だな…………いや、そのう、あんたはゼクス教の聖典、箴言の書には載っていないのか?」


「……いや、なんといえばいいかのう……わしもそのゼクス教の聖典……箴言の書か?……それを読んだことがないのでよくわからんのだがなあ……というか、お前さんは敬虔なゼクス教徒なのだろう?なのに判らんのか?」


「……いや、俺の家が敬虔なゼクス教徒だったってだけで、俺自身はまったくそうじゃないんだ。だから正直、箴言の書をまともに最後まで読んだことなど一度もないんだよ。だからあんたが載っているかどうかは俺にはわからないんだ」


「……ならばお前さんは何を信じて生きておるのじゃ?」


「……特になにも……強いて言えば自分自身だ。それもあのエスタ戦役以降は特にだ」


「つまりは無神論者と考えていいのか?」


「そうだな。それでいい」


「ふうむ。そうなるとやはり困ったな……そうじゃ!昔話なんかにも、わし出てくるらしいんじゃが、聞いたことないか?エルという名のしゃべる黒猫……」


 エルの必死なアピールもむなしく、オルテスは無言で首を横に振った。


「知らんか~そうか~参ったの~わし今まで大体これで話し通ってきたんじゃがのう~」


「……なんかすまんな。俺がものを知らんばかりに……」


 オルテスは必死なエルが気の毒に思えたのか、軽く頭を下げて言った。


 するとエルが肩をこれ以上ないほどに落としながら弱々しく言った。


「いや……お前さんが謝る事ではないわい……わしの知名度が低いのが悪いんじゃよ……」

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