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第四百五十九話 オルテスの告白

 オルテスは、六年前のエスタ戦役以来ずっと一人で問題を抱え込んできたことによる寂しさからか、自らの素性やこれまでのいきさつについてエルに詳細に話したのだった。


「……だから俺はあいつらの仇を討ってやりたいんだ。親衛隊員だった弟のコリンと、エスタで死んだ親友のネメスの仇をな……」


 エルはオルテスの告白を、ただの猫のフリをして耳ざとく聴いた。


(……ふうむ。なるほどな……この男はこの男なりに事件を探り、最終的にレノンが怪しいと思い至ったということか……)


「……ほら見てくれ、この丸太のような腕を。この六年間というもの、俺は誰が相手でもあいつらの仇を討てるように鍛えに鍛えてきたんだ」


 オルテスはそう言って両腕に渾身の力を込めた。


 するとその両腕はこんもりと山のように大きく盛り上がった。


(……見事なものじゃ。相当に鍛え上げたのじゃろうて。腕だけではなく首周りも尋常な太さではないわい。それにわしの足下の脚部の筋肉もこれ以上ないくらいに発達していると言っていい。おそらくは相当な手練じゃわい……)


 エルはオルテスのこれまでの努力を思い、少しばかり感心した。


(……しかし、たしかにレノンは怪しい奴だが……あ奴はエスタ戦役においてなにがしかの役割を果たしたのであろうか?……わしが聞いたところでは、あ奴は死んだゴルコス将軍の幕僚としてエスタに布陣したものの、千年竜が現れる前に援軍を呼びにエスタを離れたということじゃったが…………もしや!あ奴が千年竜をエスタにおびき寄せた張本人かっ!……いや、いやいやいや、ただの人間に千年竜をおびき寄せられるわけがない。それこそあの竜の涙でも使わない限りはな……)


 するとそこでエルがはたと首をもたげ、これまで見せたことのない最高に間抜けな顔となって考え込んだ。


 オルテスもエルの様子に気付き、不思議そうにエルの顔を覗き込んだ。


「……どうかしたのか?……」


 だがエルはオルテスなどどうでもいいといわんばかりにそのままの姿勢で考え込んだ。


 そして沈黙の時がしばらく流れ、ついにそれは大音声によって破られることとなった。


「あっーーーーーー!!!そ!そ!そ!それかっ!!!レノンは竜の涙を使って千年竜を操ったのかっ!!!いやしかし、どうやって竜の涙を手に入れたのじゃ!?あれはルキフェル様が戯れにお作りになった代物で……………………ルキフェル様が戯れに人間に与えたのかっ!!!そうだ!きっとそうだ!!そうに違いない!!!」


 エルは辺りに響き渡るくらいの大音声で、自らの考えを声に出してしまっていたのだった。


「……お、お前……しゃ、しゃべった……」


 オルテスは自らの膝の上に乗った猫が突然しゃべりだしたことに驚き、呆然とした顔つきのまま固まった。


「……い、いや……つい……しゃべってしもうたわい……」


 するとその時、大使館の中がざわめき始めた。


「いかん!大声出しすぎたわい!とりあえず逃げるぞ!」


 エルはすぐさまオルテスの膝から敏捷に下り、森の中へと分け入った。


 途中エルは振り返り、オルテスに向かって声を潜めて言った。


「何をぼーっとしておるのじゃ!詳しい話は後でしてやる!一旦森の中へ逃げるのじゃ!」


 オルテスは驚きをまだ隠せない様子でありながらもようやく状況を飲み込めたのか、エルの指示に従い慌てて立ち上がって森に向かって走り出すのであった。

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