第四百五十話 神の実在
「……まあ、いるのでしょうね……」
シェスターは少々歯切れ悪くそう答えた。
するとロンバルドもまた、何か引っかかったような物言いをしたのだった。
「……だな。お前が言うとおりエル様がいる以上、神は確かにいるのだろうが……何というかそのう……我々が思い描いていたような存在ではなさそうというか……いや思い描いていたと言っても別に信じていたわけではないが……」
「そうですね。巷間伝わる三大宗教が説いているような全知全能で全てを見透かしているような完全無欠な存在としての神ではなく、原始宗教で描かれているような、実に人間臭い神々に近いような気がしますね?」
「そうだな。俺もそう思う。なにせエル様自体がまさしくそれだからな」
「ええ、猫の王ということですが、姿かたちを除けばあれは完全に人間ですよ」
「それも、ろくでもないぐうたらな爺さんな」
「そうですね。あのルーグの森で出会ってからこれまでの六年間というものはまったくの穀潰しでしたからね」
二人はそう言ってお互いの顔を見合わせると、しばしの間愉快そうに笑いあった。
「とはいえ現在は我らのために忙しく立ち働いてくれていますがね?」
シェスターは肩をすぼめ、小首を傾げながら言った。
「ああ、そうだな。それも実に人間のようにな。たしかに年輪は我々の気が遠くなるほどに重ねているのだろうが、そう大して成熟しているようには見えないとは思わないか?」
「たしかに。よく怒りますしね」
「ああ、よっぽど人間の年寄りの方が成熟しているように俺には見える」
「……言われてみればたしかにそうですね……」
「……もしかすると神もエル様と同じなのだろうか……以前エル様から伺った神々の話は、やはり実に人間的な物語だった」
「そうでしたね。怒り、喜び、嘆き、それに妬み……様々な感情を持った実に人間世界同様の物語でした」
「シェスターよ。彼らは果たして神なのだろうか?」
シェスターはロンバルドの問いに少々戸惑った。
「……それはどういう意味ですか?……」
「なに、そのままの意味さ。彼らはたしかに人間を超越した能力の持ち主なのだろう。だが……もしかするとそれだけのことなのではないだろうか?特に人間の理解を超えた真理を悟っているでも無く、この世の全ての知識を得ているわけでも無い。ただ単に特殊な能力を持っているというだけの存在なのではないか?」
「……つまり異常に能力が発達しただけの……元は人間なのではないかと?」
シェスターの問いにロンバルドはゆっくりと大きく頷いた。
「単なる思いつきだ。だが、当たっている気がしてならないんだよシェスター。彼ら神々はかつてただの人間だったのではないかという思いつきが……な」
ロンバルドは、渋い顔でソファーにその身を預けて深く埋もれたのであった。




