第二千八百九十三話 噂
「噂が多岐に渡っているのか――それは不思議だな」
ガイウスの問いに、ローグ王は首を横に振った。
「不思議――というよりも、わざとであろう」
「わざと?」
「うむ、わざと様々な噂を流しているのだろうと思う」
「噂をか。何のために?」
ローグ王は軽く首を傾げた。
「さあな。だが、なんらかの意図の元に行っているであろうことは、想像に難くない」
「わざとは間違いないってことか」
「うむ、それほどに情報が雑多に溢れておるのでな」
「ちなみにどんな噂が流れているのか、教えてくれないか」
ローグ王はうなずいた。
「まずは、善政を敷いた王だというものだ。これは、新王が地方に赴いた際に、領民たちから直接意見を取り入れ、素晴らしい施策をしたというものだ」
「ふうん、よくありそうな逸話だな」
「その通りだ。実際、これまでに何処かで何度も聞いたことがあるような話ばかりでな。実に嘘くさいのだ」
ローグ王はそう言って笑った。
ガイウスも口元に皮肉な笑みを浮かべた。
「他には?」
「暴虐の王であるというものだ」
ガイウスが眉根を寄せた。
「ずいぶんと真逆だな」
「間のものもあるが、まずは両極端を教えようかと思ってな」
「続けてくれ」
「王城の地下には阿鼻叫喚の牢獄があり、そこでは新王に背いた政治犯やらが、夜ごと拷問にかけられているというものだ」
「なるほどねえ~。どちらも本当だとしたら、とてもではないが新王の人物像は掴めないな」
「うむ、他にも色々と真偽不明の噂が、山ほど巷に流れておる」
「人物像をあやふやにすることで、何かメリットがあるのかな?」
「さて、わたしにはわからない。隠す意味はないように思えるのだが」
ガイウスはそこで腕を組んで考え込んだ。
首を横に何度も倒し、中空を睨みつける。
と、なにやら結論めいたものを思いついたのか、ピタリと動きを止めた。
「もしかすると、木を隠すには森の中って奴かな?」
ローグ王は眉間にしわを寄せ、目を細めた。
「そうかもしれんな。数ある噂の内にある本物を隠すために、様々な種類の噂話を流す、というものだな?」
ガイウスはうなずいた。
「となると――考えられるのは、悪しき方の噂だな」
「地下での拷問、これが真実か」
「もしくはそれに近い話、他にないかな?」
ローグ王はさらに目を細め、思い出したことをガイウスに告げた。
「確か、新王は悪魔召還をしているというものがあったな」




