第二千八百九十二話 クロク
ガイウスの疑問に、ローグ王が答えた。
「軍事同盟とは言ったが、非常に緩やかなものなのだ。約定も、古いものだしな」
「古いって、どれくらい?」
「詳しくは知らんが、数百年は経っているはずだ」
ガイウスは口をへの字に曲げた。
「そりゃあ古いな。それだとあまり意味はないんじゃないのか?」
ローグ王は軽く首を傾けた。
「どうかな。実際三か国はこの数百年間不可侵であったし、意味はあると思うが」
「でも、今回クロクは動いていないんだろ?」
「そのようだな。だが、それをもってこれまでのことも意味が無いとはなるまい?」
ガイウスは納得の表情でうなずいた。
「確かにそうだな。今まではその約定があったことで、他国への抑止力として働いていたかもしれないしな」
「そういうことだ。だが――今回はそうはならなかった」
「超大国ユラシアからすれば、三か国が結集しようと構わないか」
「それどころか、五か国連合の存在を知っていてなお攻め込んだとなれば、七か国が結集しようと構わないと踏んだということだ」
ガイウスは驚きの表情を浮かべた。
「確かにそうなるな。だとすると、凄えな。だって、すでに両隣の大国ガーブ、トルマと紛争状態なのに、さらに七か国に宣戦布告したようなもんだからな。マジでどうなってるんだユラシアって」
ローグ王は肩をすくめた。
「さあな。わたしにわかるはずがないさ」
ガイウスは胸の前で腕を組み、右手で顎をさすりながら考え込んだ。
「いや、やっぱりおかしいよな。五か国連合の存在を知ったからって、いきなりこんな軍事侵攻、普通はしないだろ。どう考えたって、これはおかしいぜ」
ローグ王がため息を吐いた。
「確かにな。いくらなんでもこれは普通ではない。異常な行動だといえるだろうな」
「ああ、異常だよ。これは、どう考えても異常だ」
ガイウスは眉根をギュッと寄せた。
「ところで、あんたはユラシアの新王と会ったことはないのか?」
ローグ王は首を横に振った。
「ない」
「そうか。ならば噂レベルで構わないから、新王についてどう思っているか教えてくれ」
ガイウスの問いに、ローグ王がうめいた。
「う~む、それは難しいな」
「難しい?噂レベルでいいんだぞ?」
するとローグ王が深く息を吐き出した。
「その噂なんだが――あまりにも多岐にわたっていて、皆目見当もつかないのだよ」




