第二千八百五十話 部屋の中
ガイウスは扉を開けることなく、その前から離れた。
そして足音を出来るだけ立てないように、部屋の前から徐々に離れていった。
そこでガイウスは後ろを見た。
エルネスは先ほどよりも遠く、三十Ⅿほども向こうで立ち止まっている。
そこでガイウスは、エルネスに向かって手招きをした。
だがエルネスは三十Ⅿ先で、ゆっくりと大きく首を横に振ったのだった。
ガイウスはそれを見て片眉を跳ね上げた。
「来ない……てことは、このまま通り過ぎることは出来ないってことか」
だがガイウスは嫌な予感がするため、扉に手をかける気になれなかった。
そのため、ガイウスはしばし扉の前で逡巡したのであった。
「ちっ、いつまでもここに居続けるわけにもいかないか……」
ガイウスはそう呟くと、かなり顔をしかめながらも扉に手を伸ばした。
ゆっくりと扉に手を掛けようとするガイウス。
だがやはり嫌な予感が強いのか、思わずその伸ばした手を引っ込めてしまった。
「いや~、何なんだ、この嫌な予感は……なんていうかお化け的な感じがするんだよなあ……」
ガイウスは思わず心情をつぶやきで吐露すると、大きく息を吸い込んだ。
そしてしばらく肺腑を大きく膨らませたあと、勢いよく空気を吐き出したのだった。
「いやもう行くしかないか。ええい、鬼が出るか蛇が出るか、どっちにしてもぶちのめすしかない!」
ガイウスは気合を入れるや、ドアノブに一気に手をかけた。
そしてその勢いのままにドアノブを回して扉を開けたのだった。
「……いる?」
ガイウスは思わず部屋の中を覗き込みながら、声をかけた。
だが返答はなかった。
ガイウスは仕方なく扉を全開にし、一歩中へと足を踏み入れた。
「いないのかな~?」
ガイウスは小声でそう言いつつ、少しずつ部屋の中へと入って行った。
だがやはり返答はなかった。
部屋の中は数Ⅿほど廊下があり、その向こうにリビングが見える。
ガイウスは慎重に廊下を進み、リビングへとたどり着いた。
リビングは広い間取りの中央にテーブルと二脚の椅子。
それだけしかなかった。
右を見るとなにもない。
だが左を見ると続き部屋があり、そこにはベッドが置かれていた。
「ベッドルームってわけか。そこにいるのかな?」
ガイウスはそう呟くと、ベッドルームに脚を向けるのであった。