第二千八百四十九話 短い赤髪の少女
「お兄ちゃん、遊ぼ」
短い赤髪の子はそう言って、ガイウスの様子をうかがっている。
ガイウスは思わず嫌な予感を覚え、立ち止まった。
すると女の子が大きく首を傾げ、身体もぐいっと横に曲げて再び言った。
「ねえ、お兄ちゃん、遊ぼうよ~」
ガイウスは怪しげなものを見るような目で少女を見つめつつ、言った。
「……え~と~、君も召し使いのひとりなのかな?」
すると少女が笑みを浮かべて大きくうなずいた。
「そうだよ」
「え~と~、神様に仕えているのかな?」
「そうだよ」
「うんと~、遊ぶって何をなのかな?」
すると少女が可愛らしく顎に人差し指を当てて考え始めた。
そして上を見上げて考え込むと、突然表情が明るくなった。
「かくれんぼ!」
ガイウスは片眉を跳ね上げ、言った。
「かくれんぼね……いやあ、お兄ちゃんちょっと急いでいるんだよねえ」
すると少女が眉根を寄せて、口を尖らせた。
「じゃあなんで聞いたの?」
ガイウスは少し困った表情となり、答えた。
「いや、それはまあ……一応聞いておこうかと思っただけで……」
少女は不機嫌な表情となった。
「つまんな~い、遊ぼうよ~」
ガイウスは完全に困り顔となって後ろを振り返った。
だが頼みのエルネスは、いつの間にやら二十Ⅿほども距離を取っていた。
ガイウスは頬を引きつらせた。
「……お~い、遠すぎだろ~」
だがエルネスはガイウスに応えるでもなく、さらに後ろにどんどん下がって行った。
その様子を見て、ガイウスはまたも嫌な予感がした。
ガイウスは勢いよく首を振り、少女に視線を合わせようとした。
だが、そこには少女の姿はなかった。
ガイウスは慌てて周囲に視線を送り、少女の姿を探した。
だが何処にも少女の姿はなかった。
「……部屋に戻ったのか?」
ガイウスは不審げな表情を浮かべ、さきほど少女が姿を現した部屋の前へと向かった。
途中、周囲に目を配りながら移動し、扉の前へとたどり着くと、おもむろにドアノブに手をかけようとした。
「さっき彼女が出てきた時には、扉は開けたままだったよな……でも今こうして扉が閉まっているってことは、たぶんこの中に戻ったってことだよな……」
ガイウスはそう呟くと、ゆっくりと伸ばした手を戻した。
「だったらこのまま通り過ぎればいいんじゃないか?」
ガイウスはそう思い、ゆっくりと扉の前から後ずさったのであった。