第二千八百四十八話 弱弱しく
「ここまでだな。道を開けてもらおうか」
ガイウスがグイッと一歩前に出て言った。
レーラはうずくまった姿勢で首をもたげた。
「誰が……通すものですか……」
レーラは強気な発言をするも、その声音は実に弱弱しいものとなっていた。
ガイウスはさらに前に進み出た。
「あっそ。まあお前が何を言おうと、俺は通り過ぎるけどね」
ガイウスはそう言うとずんずん進み、レーラのすぐそばまで来た。
するとレーラがよろよろとしながらも右手をゆっくりと上げた。
「通さないと……いいましてよ!」
レーラは身体がふらふらと揺らめきながらも裂帛の気合を込めた。
するとレーラの右手から氷の刃がいくつも生成されてガイウスを襲った。
だがその威力も数も、弱弱しいものに過ぎなかった。
ガイウスは何もせず、すでに展開しっぱなしの赤黒い膜によってそれらを簡単に跳ね除けた。
「ぐっ……」
レーラは悔しそうに歯噛みした。
そしてがっくりと首を垂れたのだった。
ガイウスはその横を無言で通り過ぎた。
レーラは首を垂れたままガイウスを見送る羽目となった。
レーラの横を通り過ぎ、しばらくするとエルネスがすぐそばまで寄ってきた。
そんなエルネスに、ガイウスは振り返らずに声をかけた。
「最強クラスも大したことなかったぜ?」
するとエルネスが無感動に答えた。
「そのようね。でもちょっとは苦戦したように見えたけど」
「そんなことあるかよ。ちょっと遊んでいただけだ」
「そう。それならいいけど」
「あとの十九人も同じレベルなんだろ?」
エルネスがゆっくり静かにうなずいた。
「そう。でもタイプはそれぞれ違うわ」
「なるほどね。でもレベルは一緒なら問題ない。簡単に片づけてやるよ」
「自信たっぷりね」
「当然だろ。お前の目からはどう映ったかはわからないけど、俺にとっては本当に余裕だったからな。タイプの違いくらいで苦戦することはないと思うぜ」
「そうかしら?」
懐疑的なエルネスに反論しようとガイウスが口を開きかけたその時、近くの扉がギイーと音を立てて開いた。
ガイウスとエルネスは反射的にすぐさま立ち止まり、その扉の向こうに注視した。
すると扉の影から、短い赤髪の少女がぴょこんと登場した。
少女は人懐っこい笑みを浮かべて、ガイウスに向かって言ったのだった。
「お兄ちゃん、遊ぼ」