第二千八百四十六話 バリアー
ガイウスの問いに、レーラが嘲笑うように答えた。
「もちろんですわ。神様は日頃わたくしたちに、如何に人間が汚らしい生き物なのかを、滔々と語っておられるの。如何に人間が卑しく、傲慢で、唾棄すべき連中であるかを教えてくださっているのよ。これでわかったかしら?神様は人間を心底汚らしい生き物と侮蔑なさっておられるのよ。だからわたくしは、貴方なんかを神様の元へお連れするわけにはいかないのよ」
ガイウスはレーラの言葉を何度もうなずきながら聞いた。
そして聞き終えるや、言ったのだった。
「面白い。だったらなおさら神の元へ行かないといけないな」
そう言うと、ガイウスは首を何度も倒してコキコキと鳴らした。
レーラはあきれた顔をして言った。
「通さないと言っているのがわからないのかしら?」
「お前が通さないと言っていようが、俺は通るよ。是が非でも神の野郎に会って話さないといけないからな」
するとレーラの顔色が変わった。
「神様に向かってなんて無礼な!許しませんよ!」
だがガイウスはすでにキレていた。
「あん?お前が許さないからってどうだって言うんだ?俺は押し通るまでだぜ」
ガイウスがそう言うと、レーラが先制攻撃を仕掛けてきた。
「おだまりなさい!」
レーラは伸ばした両手から、槍の穂先のように鋭い氷の刃を無数に放った。
だがそれらはガイウスが眼前に再び浮き上がらせた巨大な炎によって一瞬で溶かされた。
「もう許さん。灰にしてやるよ」
ガイウスは燃え盛る炎の矛先を、レーラへと向けた。
地獄の業火がレーラ目掛けて襲い掛かる。
レーラはすぐさま前面に半透明なバリアーを展開した。
ガイウスの炎がバリアーと衝突する。
ブワッ!
炎はバリアーによって一旦は塞がれたものの、そのまま辺りを包み込んだ。
バリアーの周りを燃え盛る炎。
すると次第に半透明なバリアーの内側に変化が起こった。
レーラの顔に額から汗が滴り落ちはじめたのだ。
時間と共に徐々にその数は増えていき、終いには滂沱の汗でしとどに濡れそぼるまでとなった。
ガイウスはその様子を見てほくそ笑んだ。
だがレーラの意気は軒昂であった。
「まだよ。わたくしはまだ負けてなどいませんわ!」
レーラはそう言うと、バリアーの強度を高めると同時に、その中を冷気で満たした。
ようやく一息ついたレーラであったが、ガイウスがそれを許さなかった。
「ふん、俺はまだ本気を出してないぜ」
ガイウスは言うや、炎の勢いに拍車をかけたのであった。