第二千八百四十三話 膜の外
「貴方は一体何者なのです?」
レーラが漆黒の闇の中から、ガイウスをキッと睨みつけながら言った。
「ガイウス=シュナイダーだよ。またの名はアウグロス。メリッサ大陸を統一する予定の男だ」
「メリッサ大陸?なんですか、それは?」
「下界にある大陸の名前だよ。知らないのか?」
ガイウスが意外そうに問いかけると、レーラが吐き捨てるように言った。
「下界などに興味はありませんので」
「あっそ。まあいいや、それより、いい加減諦めないか?」
ガイウスは暗闇の中でうっすら浮かぶレーラに向かって、軽い感じで言ってみた。
だがレーラの反応は激烈なものであった。
「諦めるわけがないでしょう!」
レーラは言うや、赤黒い膜の泡立ちが激しくなった。
ボコボコと音を立て、泡が出来ては激しく弾けた。
「ちっ!」
ガイウスは苦々し気に舌打ちをすると、魔力操作に専念した。
だが泡立ちはさらにどんどんと激しくなり、ガイウスの魔力操作では追いつかなくなっていた。
「くそっ!ならば……」
ガイウスは赤黒い膜の内側に、もう一枚同じ色の膜を張った。
「これでどうだ!」
だがすぐにレーラの攻撃は、外側の膜だけではなく内側の膜へと侵食してきた。
「いたちごっこかよ!」
ガイウスはすぐさまさらに内側にもう一枚幕を張り、ようやくすこし落ち着きを取り戻した。
だが一番外の膜はすでに穴の方が大きいというありさまのため、念のためさらに内側にもう一枚幕を張ったのだった。
「四枚重ねだ。これでしばらくは問題ないはずだ」
ガイウスはここで完全に落ち着きを取り戻し、大きく息を吐き出した。
「おい!どうする?まだやりあうつもりか?だったらそろそろ俺も攻撃を仕掛けるが、どうなんだ?」
だがこの問いに、レーラは無言であった。
そのため、ガイウスは決断を下し、攻撃を開始することとした。
だが防御のための膜を全面に張っているため、ガイウスはどうしたものかと少し考え込んだ。
「……やってみるか」
ガイウスはそう呟くと、再び魔力操作をし出した。
すると、しばらくして四枚張った膜のさらに外側に、突然ポッと炎が沸き上がった。
「お、出来た」
ガイウスはそう言ってにやりと微笑んだ。
そして次第に沸き上がった炎を大きくしていった。
「いいね。いけそうだ」
ガイウスはそう呟くと、さらに口角をくいッと上げてほくそ笑むのであった。