第二千八百三十九話 レーラ
結局、ガイウスたちが召使たちが住まう最上階フロアに到達するまでに、十二回の戦闘があった。
だがいずれもガイウスはなんとか退け、あと残すところはワンフロアのみとなっていた。
「この階を抜ければ、神様のところにたどり着けるってわけだ」
ガイウスが遠い廊下の先を見通しながら言った。
エルネスはうなずいた。
「そう。でもここから先はかなりきついと思うわよ」
「マジで?」
「ええ。だってこの階にいる人たちは、わたしたち召し使いの中で一番強い人たちだから」
「ああ、それは聞いていたけど……」
「格段に強いわよ」
「え?そうなの?」
「ええ。気を付けた方がいいと思う」
「わかった。気を引き締めていくよ」
すると言っている傍から、十Ⅿほど先の扉が開いた。
ガイウスはすぐさま身構えた。
すると扉の影から、スラリとした長身の女性が現れた。
「あら、ご機嫌ようエルネス。そちらはどなたかしら?」
エルネスはかしこまり、首を垂れながら答えた。
「失礼いたします。レーラ殿。こちらはガイウスと申す者にございます」
「そう。ガイウスさんと言うの」
ガイウスはとりあえず敵になるかわからないため、丁寧にあいさつすることにした。
「はじめまして。ガイウス=シュナイダーと申します」
ガイウスはそう言って頭を下げた。
そして首をもたげた瞬間、ぞっとしたのだった。
「うっ!」
それというのも、ガイウスが首を垂れてから持ち上げるまでのほんのわずかの間に、レーラがすぐ目の前まで来ていたからであった。
ガイウスは思わずのけぞり、うめき声を上げた。
だがレーラは、そんなガイウスの様子が面白かったのか、くすりと笑った。
そしてゆっくりと小首をかしげながら言ったのだった。
「ガイウスさんは、ここへ何をしに来られたのかしら?」
ガイウスは多少のけぞりながらも答えた。
「あの、神様にお会いしたく参りました……」
「そう。神様に……どのようなご用事なのかしら?」
「え~と……下界で困ったことがありまして……それで神様にお尋ねしたいことがあったものですから……」
するとレーラがさらに小首をかしげて問いかけた。
「そう……でも下界のことに、神様が関わっていらっしゃるのかしら?」
ガイウスは困り顔となり、言ったのだった。
「それもわからないので、お聞きしようかと……」
すると途端にレーラの顔から笑みが消えた。
「貴方はそのようなことで神様を煩わす気なのですか?」