第二千八百三十一話 召し使い
「ぐぶっ!」
突如、エルネスの口から血飛沫が上がった。
「がはっ!」
エルネスはうめき声を上げながら、ついに崩れ落ちた。
ガイウスは即座に高熱源エネルギーの放出を止めた。
膝から崩れ落ちたエルネスは、自分の身体を支えきれずに床に倒れ伏した。
夥しい量の血が床を濡らす。
ガイウスはその様を見て、結構驚いていた。
まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
(高熱源エネルギーって結構やばいやつなんだな)
ガイウスはそう思いながら、ゆっくりとエルネスに向かって歩み寄った。
そして倒れ伏して荒い息をしているエルネスに語り掛けた。
「おい、大丈夫か?」
だがエルネスからは返事がない。
返事をしたくとも出来る状況ではないようだ。
ガイウスはそう判断すると、あまり得意ではないものの、エルネスに対して治癒魔法をかけてやることにした。
ガイウスの両手から緑色のやわらかな光が生み出された。
緑色の光がやさしくエルネスを包み込む。
するとしばらくしてエルネスの呼吸がゆっくりと落ち着いたものへと変わっていった。
ガイウスはエルネスの様子をつぶさに観察しながら、しばらくして声をかけた。
「どうだ?大丈夫そうか?」
するとエルネスは苦しげな表情ではあったものの、落ち着いた声音でもって応えたのだった。
「……ええ、なんとか……」
「そうか。それはよかった」
ガイウスはそれだけ言うと、さらに治癒魔法を使い続けた。
「どうも俺は治癒魔法ってやつが苦手でな。あんまり上手くないから、ちょっと時間がかかるぞ」
「……そうですか……」
エルネスはもうガイウスに抗う気力もなく、なすがままに受け入れていた。
そうしてしばらくすると、完治とまではいかないものの、ほぼ痛みがなくなるまでに回復した。
「……もう大丈夫です……」
エルネスがそう言うと、ガイウスが額の汗を拭いながらほっと息を吐いた。
「そうか。そりゃあよかった」
エルネスはじっとガイウスを見つめ、言った。
「どうしてわたしを助けたのですか?」
ガイウスは答えを用意していなかったのか、少しばかり考え込んだ。
だがすぐに答えが見つかったのか、口を開いたのだった。
「いや、ただなんとなくな。お前、悪い奴じゃなさそうだし。単に仕事に忠実なだけの召し使いだろ?だからさ」