第二千八百三十話 赤い筋
「くっ!……わたしの真似を……」
エルネスが苦虫を嚙み潰したような顔で言う。
ガイウスは対照的に、勝ち誇ったような顔で言ったのだった。
「その通り。ちょっとした応用だよ。俺が用いるこれまでの魔法の仕組みを、ちょっとだけ変えてみたんだ。そうしたらズバリだ。ほとんどまったく同じものが出たぜ」
「くっ!それをこの場でいきなり試したというつもりですか」
エルネスが少し懐疑的に問いかけた。
だがガイウスはにっこりと笑い、答えた。
「そうだよ。だって出来ると思ったんだもん。これはまあ長年の勘って奴かな。あと、やっぱり俺の持って生まれた天賦の才によるものかな。まあ大体俺はなんでもすぐに出来ちゃうんだよねえ~」
ガイウスはそう言うと悦に入ったように、にやにやと気味悪く笑い出した。
エルネスはその笑顔を不気味に感じ取った。
「くっ!わたしのエネルギーを片手で……」
エルネスは両手から高熱源エネルギーを放出しているのに対し、ガイウスは右手一本であった。
それがエルネスの癇に障った。
「なめないでっ!」
エルネスは突如気合を入れると、両腕から放出されるエネルギーの出力を上げた。
これまでより一回り太いエネルギーの束がガイウスを襲う。
だがガイウスはにやにやした笑みを浮かべたまま、少しだけ出力を上げて受け止めた。
中空で火花を上げつつ拮抗する二つの高熱源エネルギー。
それを見て、エルネスが顔を紅潮させた。
「ぬーーーーーーっ!」
エルネスは顔や首筋の血管が浮き上がり、はちきれんばかりに力を込めた。
すると高熱源エネルギーの束がさらに太く、赤く輝いた。
ガイウスはそれを見て、さすがに少し気を引き締めて出力を上げた。
二つのエネルギーの衝突が、空中で激しく火花を散らす。
「ぐぎぎぎぃーーーー!」
エルネスが目や歯をむき出しにして、さらに力を入れる。
その眼は血走り、額から滝のような汗が流れ出し、青筋を数十本立ててエルネスは力を込め続けた。
だがそれはついに限界の時を迎えた。
ツーッと鼻の穴から、一本赤い筋が垂れた。
だがすぐにもう一つの鼻の穴からも、ツーっと垂れた。
さらに血走った眼からも、一筋の赤い筋が下に向かって伸びたのだ。
それらはすべて血であった。
エルネスは鼻や目や、さらには耳からも血を出しはじめた。
ガイウスはそれを見て、勝ったと思うのであった。