第二千八百二十四話 エルネス
「エルネスね……」
ガイウスは目の前の女性の名前を噛みしめるようにつぶやいた。
だがそのエルネスは、特にどうということもなくただじっとしていた。
そのためガイウスは、沈黙に耐えかね、言ったのだった。
「で、そのエルネスさんは……」
ガイウスはそこで一旦言葉を区切ると、ギロリとエルネスを睨みつけたのだった。
「神様なのか?」
するとエルネスが初めて感情を表に現し、驚いた表情を見せた。
「神様?……このわたしが?」
その反応でガイウスは察した。
「どうやら違うみたいだな」
エルネスは大いにうなずいた。
「当然です。わたしが神様だなんて、驚かせないでください」
ガイウスはうなずき、首を軽く傾けて言った。
「さしずめ、神様に仕えている巫女みたいな感じかな?」
すると今度はエルネスが首を傾げた。
「巫女……ですか。違いますね。わたしはただの召し使いです」
「召し使いね。なるほど。でも、侵入者を軽く片付けることが出来るくらいには強いってわけだ」
エルネスは無感動に言った。
「ええ。当然のことです。侵入者如き、神様のお手を煩わせられませんから」
ガイウスはうんうんとうなずいた。
「なるほどねえ……そういうことか」
「ええ、そういうことです。さあ、もういいですか?充分時間は経ったと思いますので」
エルネスはそう言うと、ガイウスをじっと見つめた。
ガイウスは両手を上げて降参のポーズをした。
「待った。謝るってことで許しちゃもらえないんだな?」
「当然です。そんなものには何の価値もないですから」
するとガイウスがすかさず両手を降ろした。
「じゃあ仕方がない。やるしかないか」
ガイウスはそう言うと、にやりと笑った。
エルネスは不思議そうに軽く首を傾げた。
「なんで笑いましたか?」
ガイウスは軽く肩をすぼめた。
「なあに、出来れば戦いたくはなかったが、やるとなれば仕方がないと思ってね。これでも戦闘には自信があるんだ」
するとエルネスが少しだけ納得したような表情を見せた。
「なるほど。自信家というわけですか。今までもそういう者はいましたが、皆すぐに下に堕ちて行きましたよ」
ガイウスはまたも肩をすぼめた。
「あらまあ、そりゃあ気の毒に」
「貴方も同じですよ」
するとガイウスは、またもにやりと笑みを浮かべたのだった。
「さて、それはどうかな?それはやってみればわかるんじゃない?」