第二千八百二十三話 強制執行
「納得できるかーーーーーー!」
ガイウスは魂からの叫び声を上げた。
だが対する女性は、やはりくすりと笑うでもなく、じっとガイウスを見つめていた。
ガイウスはあまりのリアクションのなさに、途方に暮れた。
「いや、あのさ、もう少し話をしない?」
だがこれには間髪を入れずに、女性が返した。
「しません。わたしはただ、貴方が準備を終えるのを待っているだけです。話はすでに終わりましたので」
「いやいやいや、準備って死刑執行に備える準備だろ?」
「そうです。出来るだけ速やかにお願いします」
「いや、出来ないって!」
「どうしてですか?貴方は罪を認めましたよね?」
「だ・か・ら、不法侵入はしましたよ?それは認めるけども、それに対する罪が死刑ってのが納得出来ないって言ってるわけ!」
「そう言われても、ここの決まりでは死刑ですので」
するとガイウスの怒りが爆発した。
「だから!そんな決まりだからって死刑にされてたまるかって言ってんの!」
だが女性はやはり無表情であった。
「決まりは決まりです。問答無用です」
するとガイウスが言葉に詰まった。
「ぐっ!……問答無用って……じゃあどうすればいいんだよ」
「ですので準備をしてください。出来たらすぐに執行しますので」
あくまで執行前提の女性に、ガイウスは歯ぎしりせざるを得なかった。
「ぐぬぬぬぬ……じゃあその準備が出来なかったらどうすんだよ」
「さきほども言った通り、十分ほどは待ちますが、それ以降は強制執行です。ちなみにさきほどよりすでに五分ほどは経過しているかと思いますので、残り五分です。あしからず」
ガイウスはまたも歯ぎしりをせざるを得なかった。
「ぐぬぬぬぬ……強制執行かよ……なんて暴力的なんだ」
日頃かなり暴力的なガイウスが思わずそう漏らすと、女性が無感動ながらも口を開いた。
「文化的な解決方法です。人間はよくこれをやりますよ」
「どこがだよ。ていうか、執行するのはあんたなのか?」
女性はおおきくうなずいた。
「ええ、そうです」
ガイウスは女性を脚の先から頭のてっぺんまでをじろじろと見回した。
すると女性が無表情で言った。
「今度は痴漢ですか?」
ガイウスは頬を引きつらせながらも反論した。
「見ただけで痴漢になんてなるかよっ!それより、あんた名前は何て言うんだ?」
すると女性が間髪を入れずに答えたのだった。
「エルネスと申します。あと五分ほどの付き合いですけど、よろしくお見知りおきを」