第二千八百十四話 両性具有
「両性具有……」
ガイウスはあまり聞き慣れない言葉を耳にして首をひねった。
セロはわずかに笑みを浮かべながら語った。
「両性具有とは、読んで字のごとく、男の性と女の性の両方を備え持つということです」
ガイウスは眉根を寄せながら言った。
「それはつまり……男でもあり、女でもあるってことですか?」
「そう。その通りです。どちらの性も持つのです」
ガイウスはさらに眉根を寄せた。
「それは……ある時は男性で、ある時は女性になったりするってこと?」
「ええ。そうですね。時と場合によって変わるようです。ただし文献には、今、男になりました。今、女に替わりましたなどとは記載されていません。もちろん両性具有だとも書いてはおりませんよ」
「まあ両性具有だと書いてあったら、みんなそういう認識になりますもんね。そりゃあ書いてないでしょうね」
「ええ、ええ。そうなんです」
「でも貴方はエール神を両性具有だと思うのですよね?それは何故ですか?」
セロは顎に人差し指を当て、少し考えてから答えた。
「そうですね……文献を読みますと、エール神を描いたところで、時に混乱するのですよ。あれ?エール神って男神だったかな?ところが別の個所を読んでみると、あれ?エール神は女神だったかな?といった具合にね」
ガイウスは納得顔でうなずいた。
「なるほど、箇所箇所によって違う性のように感じられるのですね?」
「ええ、そうなんです。ですから昔からエール神は両性具有なのではないかとする学派がおりまして、わたしはその学派に与しているというわけです」
ガイウスはエール神についてはそのくらいにして、次なる質問に移った。
「ところで、こちらの三神は何処におられるのでしょうか?」
ガイウスの質問の意図がわからず、セロが首を傾げた。
「何処……と仰られると?」
「ああ、いや、例えば天上におられるとか……」
「ああ、そう言う意味ですか。そうですね、霊峰アルピザンの直上の天界にいらっしゃると伝わっております」
ガイウスは大いにうなずきつつ、セロの言葉を反芻した。
「霊峰アルピザンの直上……ね」
ガイウスはにやりと微笑むと、改めてセロに尋ねたのだった。
「その霊峰アルピザンというのは、何処にあるのでしょうか?」
するとセロがすぐに答えてくれたのだった。
「アルピザンでしたら、天気がいい日はこの辺りでも西の方角に見えますよ」