第二千八百十話 地母神
「地母神……この地方の守護神みたいなものでしょうか?」
ガイウスの問いに、老神父がうなずいた。
「ええ、仰る通りです。この地方に恵みをもたらす神と言い伝えられております。ですが、それはあくまでこの地方だけのこと。ですので全国的な知名度は皆無かと……しかしながらこの地方では昔から敬虔に信奉されておられます」
ガイウスは納得顔でうなずいた。
「なるほど、そうでしたか。ちなみにこの地方と仰る中に、アグルトは入っておりますか?」
老神父は大いにうなずいた。
「ええ、もちろんです」
「なるほど……」
ガイウスはそう言うと、腕を組んで考え込んだ。
それを見て、老神父は頃合いと思ったのか、声をかけた。
「それではわたしはこの辺で。どうぞごゆっくり見学していってください」
さっと踵を返して立ち去ろうとする老神父の背中に、ガイウスが素早く声をかけた。
「ありがとうございます。ですが、最後にもう一つお聞きしてよろしいでしょうか?」
老神父は立ち去ろうとしていたものの立ち止まり、おもむろに振り返った。
「なんでしょう?なんなりとお尋ねください」
「ありがとうございます。この教会は実に立派な造りですが、こちらの三柱を祀る教会としては一番大きいのでしょうか?」
すると老神父が笑みを湛えて答えた。
「ああ、いえ、こちらよりも大きな教会は他にございます。こちらはあくまで分社のようなもの。ですので、そもそもの起こりである、原初の教会が存在いたします」
ガイウスは勢い込んで尋ねた。
「その教会の名前と、場所を教えていただけますでしょうか?」
すると老神父が深い笑みを湛えて言ったのだった。
「もちろんですよ。教会の名前はカラント教会。場所はアグルト西の郊外にございます、ガモンの町にございます」
「どうもありがとうございます。大変参考になりました」
ガイウスは老神父に対して丁寧にお辞儀をした。
老神父はにこやかに微笑みながら、去って行った。
ガイウスはあらためて三柱を見つめ、言ったのだった。
「アグルトでロキューズは消えた。ならばこの三柱のいずれか……おそらくは悪神とされるデグロスの仕業と考えるのが自然だ。よし、次なる目標はガモンだ」
ガイウスは方針を決めるや、踵を返した。
そして颯爽と出口へ向かって歩き出すのであった。