第二千八百九話 デグロス、エール、ダラム
「そうですか……中央の神こそが主神であると、前の神父様から申し送りがあったのですか」
ガイウスがそう言うと、老神父は大いにうなずいた。
「ええ。わたし自身は、かなりはっきりとした意思を感じました」
「それは前の神父様のということでしょうか?それとも代々の神父様たちの……でしょうか?」
ガイウスの問いに、老神父は笑みを浮かべた。
「そうですね。代々のでしょうかね。ですが前の神父様もはっきりとした意思を持っておられたと思います」
ガイウスは大いにうなずいた。
「では貴方はどうなのでしょうか?申し送りを受けてから三十年。今、この三柱を見て、やはり中央の神こそが主神であると?」
すると老神父がまたも大いにうなずいた。
「はい。わたし自身は先ほど、解釈はしないと申し上げましたが、これに関してははっきりと申し上げます。中央の神こそが主神なのだろうと」
ガイウスはうなずくも、少し疑義があったのか、あらためて問いかけた。
「何故そう思われたのですか?何かそう考えるに足る、証拠のようなものがあったのでしょうか?」
「証拠といえるほどのものはございません。ですが、様々な文献などを読み、この教会内における彫像などを見ますと、そうなのではないかと思わざるを得なくなりました」
ガイウスは納得顔でうなずいた。
「そうですか。日頃解釈をされない神父様がそう思うに至ったということはそういうことなのでしょう」
ガイウスはそう言うと、何度か首を縦に振り、ひとしきり考え込んでから問いかけた。
「ところで、一般的に悪神とされているのは、どの神なのでしょうか?」
ガイウスの問いに、老神父がすかさず答えた。
「右手におられる神になります」
「男神ですね?」
老神父はうなずき、言った。
「はい。御名はデグロスと伝わっております」
「デグロス……では左の神の御名は?」
「エールと伝わっております」
ガイウスは大きくうなずき、名前を何度も口の中で反芻した。
そして最後にもう一柱の名を尋ねたのだった。
「では中央の主神の御名は?」
「ダラムでございます」
ガイウスはこれまた名前を口の中で何度も反芻した。
そして頭の中の記憶と何度も照らし合わせた結果、こう言ったのであった。
「三柱ともまったくの初耳です」
すると老神父が笑った。
「そうでしょうとも。あまり有名ではありませんのでね。この三柱は、この地方のみに伝わる地母神なのですよ」