第二千八百話 天帝
「さあ?……さあ、じゃすまないだろうが」
ガイウスが怒りに任せて言った。
だがアルマスはどこ吹く風だった。
「知らないものは仕方がないだろう」
「なんで知らないんだよ。お前に命令を下した相手だろ?」
「そうだな」
「そうだな、じゃないんだよ!」
ガイウスが声を荒らげた。
だがやはりアルマスはどこ吹く風だった。
「そんなことを言われても、天帝について詳しく知っている者などいないんじゃないかな?」
ガイウスは眉根を寄せた。
「なんでだよ?偉いさんなんだろ?素性もわからない奴がなんで偉いさんになるんだよ」
するとアルマスが首を傾げた。
「さあな、なにせ千年ほども君臨しているようだからな」
するとガイウスがまたもため息をついた。
アルマスはまたもそれに文句を言った。
「またため息をついたな。やめろ、気分が悪い」
「お前が何にもしらないからだろ。なんでそんなに知らないんだよ」
するとアルマスが驚くべきことを口走った。
「仕方がないだろう。わたしは天帝に生み出されて命を請け、すぐに地上に下りたところで捕まったんだからな」
「…………え?」
ガイウスはすぐにはアルマスが言った内容が飲み込めなかった。
だがなんとか時間をかけて反芻し、ようやく言葉の意味を飲み込んだ。
「お前、生まれたばかりの赤ちゃん状態で捕まって二百年ってことか?」
するとアルマスがうなずいた。
「そうだ。退屈にもほどがある」
「な、なんだそりゃ?」
「なんだそりゃと言われても、そうなんだから仕方がないだろう」
「お前、色々と変にもほどがあるぞ」
「それも、そんなことを言われても、そうなんだから仕方がないだろう」
「お前、なにかって言えば『仕方がないだろう』だな」
「ほかに言えることもないからな。仕方がないだろう」
ガイウスはあきれ放題にあきれた。
「ああ……面倒くさい。なんかいろいろと面倒くさい……」
「そう言うなよ。出来るだけ早く解放してくれ。わたしは生れ落ちてすぐに捕まってしまった可哀そうな奴なんだからさ」
「そんな奴をなんで俺が解放しなきゃならないんだよ。天帝がしろよ」
「そんなことをわたしに言われてもなあ…………」
「お前生まれてすぐに地上に来て、ですぐに捕まったんだろ?だったら天帝は捕まっているところを見てたんじゃないのか?」
だがアルマスは首を横に振ったのだった。
「見てなかったんだろ?だからわたしは二百年捕まったままなんだろうさ」