第二千七百九十七話 山の中腹
「ま、動きがない以上、気にしてもしょうがないか」
ガイウスはそう言って肩をすぼめた。
対するアグルト13世は大いにうなずいた。
「そうだな。気に留めておく分には構わないが、気に病むこともないだろう」
「ああ。そうするよ」
ガイウスはそう言って快活な笑みを浮かべた。
アグルト13世も笑みを浮かべ、言った。
「ところで、今日はゆっくりしていけるのか?」
アグルト13世の問いに、ガイウスが首を横に振った。
「いや、実は他にも行くところがあるんだ」
するとアグルト13世が心底残念そうに言った。
「そうか、それは残念だが、仕方あるまい。お前はずいぶんと忙しいからな」
「まあね。色々と雑事が多くてね」
「わかった。ではまた来るがよい。その時はゆっくりと酒を酌み交わそうぞ」
ガイウスは大いにうなずいた。
「ああ、そうしよう。じゃ、また」
「ああ、またな」
ガイウスはアグルト13世の別れの挨拶を背に、部屋を出たのであった。
「さて、それじゃあデグスの町へと本格的に向かうとするか」
ガイウスはアグルトを飛び立ち、一気に高高度へと上がると、最高速度でもって飛ばして一路デグスの町を目指した。
「気に留めるだけで気に病むことはないか……確かにそうだな。だけど、今まで気にも留めてなかったくらいだからなあ……結構うかつだったかも」
ガイウスはベルクの貴族たちが大人しくしていることに首を傾げた。
だがやはりアグルト13世に言われた通り、考えすぎてもよくないと思い、ベルクのことは心に留めつつ、基本的にはあまり考えないようにすることにした。
そうしてしばし空の旅を楽しんだのだった。
「お、見えた。デグスの町だ。ここは一気に山へと向かうとするか」
ガイウスは遥か彼方のデグスの町を確認するや、その背後にそびえる山を一気に目指した。
高速で飛行するガイウスは瞬く間にデグスの町上空を通過し、山の中腹にある社殿に降り立った。
そしてそのまま、社殿の中へと足を踏み入れたのであった。
社殿に入ると真正面に大きな磐座があった。
ガイウスは迷わずその大きな磐座の上に乗った。
そして静かに語り掛けたのであった。
「アルマス、いるか?俺だ、ガイウス=シュナイダーだ……。あ、いや、アウグロスだ」
するとガイウスの目の前にうすぼんやりと人の形が浮かび上がった。
「……ああ、アウグロスか……お前、今変な名前言ってなかったか?」