第百八十話 今生の世
メノンティウスの容赦ない口撃に、ガイウスは唇を噛み締めて耐えた。
メノンティウスはそんなガイウスの表情に浮かぶ深い後悔の念を認めると、嵩にかかったようにさらに激しく責め立てた。
「まつろわぬ者よ。お前に真の友などおるまい。なぜならば、本来親友などというものは、腹蔵なく何でも腹を割って話す間柄でなければならぬ。だがお前にはあまりにも秘密がありすぎる。それゆえ、お前には真に語り合う友などいるはずがないのだよ。それにいくら若い肉体に精神が引きずられていたとしても、お前の実年齢はあの子らの何倍も、いやへたをすれば何十倍もあるはずだ。到底あんな若い子らと話が合うはずがない。いや実際のところ、お前のかりそめの両親たちに対しても同じはずなのではないか?」
「……そんなことは……ない……」
ガイウスはそれだけを言うので精一杯であった。
「本当か?本当に話が合うと?楽しく日々を送っていると?……現状にいささかも不満などはないと?」
「……不満など……ない……」
「そのような言葉信じられぬな。お前は今生の世をシュナイダー家の赤子として転生した。そのためこれまで何不自由なく豪勢に暮らせてこれたために、今まで露ほども考えたことがなかったのであろうが、本来転生者というものは、その有り余る能力にふさわしい大いなる野望を抱き、立身出世を目論むものぞ。そして今お前はそのことに気付いたはずだ。自分には天下に名乗りを上げるだけの能力が備わっており、また転生者ゆえにこの世の何者とも血の繋がりなどなく、誰一人として己を縛る者のないまつろわぬ者であるということに。そして我らはそのお前にダロスの玉座を差し出すといっておるのだぞ?どうだ再考する価値があるのではないか?」
メノンティウスは一気呵成に長広舌を捲くし立てた。
ガイウスの動揺は今や目に、顔に、手足に、いや全身隈なく現れ出でていた。
メノンティウスはその様子を見てほくそ笑み、己が勝利を確信した。
だが次の瞬間、メノンティウスの顔から波が引くように一瞬で笑みが消え失せた。
メノンティウスはものすごい勢いで後ろを振り返ると、何もない中空の或る一点を、凄まじく恐ろしげな形相でにらみつけた。
そして苦々しげに呟いた。
「……あと少しだったものを…………いまいましい奴め!」
その瞬間、それまで何もなかったただの空間に突如としてくもの巣のようなひび割れが生じた。
次いでガラスが割れる時のようなパリンという乾いた音を立てて、空間は突如として砕け散った。
そしてその開いた空間から漆黒に染まった何かが、凄い速度で飛び込んできた。
ガイウスはその漆黒の巨体を認めると、ささやくようにその名を呟いた。
「……エル……」
エルは猫独特のしなやかさで大地にさっと降り立つと、全身を使って大きく伸びをし、さらに余裕綽々で大きな欠伸をかいた。
そしてゆっくりと身体を戻すと、メノンティウスをじっとにらみつけた。
「お主、このわしの目を盗んで随分とやりたい放題してくれたではないか。なかなかに面白そうな奴じゃな。ここからはこの猫の王たるエル様がお主の相手をしてやろうぞ」
「面白かった!」
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