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第百七十七話 メノンティウス

「メノンティウス……変わった名だな……」


 ガイウスは、噛んで含めるようにゆっくりとその名を口にした。


 メノンティウスはするどい視線でもってそんなガイウスを捉え、凝視した。


 すると視線を感じたガイウスは、とにかく癇に障るのか、イラッとした物言いでもってメノンティウスを咎めた。


「うん?なんだ?俺の顔に何か付いてでもいるのか?」


 するとメノンティウスは含み笑いをしつつ、口を開いた。


「まあ、そう突っかかるな転生者よ。シグナスから聞き及んでいるであろう?我々はお前を仲間に誘いに来たのだよ。決して争いに来たのではない」


「断る!貴様らの仲間になどなる気はない!」


 メノンティウスはガイウスの剣幕にもまったく動ぜず、さらに話しを続けた。


「……お前が怒っているのはカルラのことについてか?」


 このメノンティウスの言葉にすかさずガイウスは噛みついた。


「貴様カルラを知っているのか?シグナスはさっきカルラを殺したのは自分ではないと言っていた。まさか、カルラを殺したのは貴様か!?メノンティウス!」


 するとメノンティウスは口元に意味ありげな笑みを浮かべた。


「やはりカルラのことを気にしてか。なにそれなら心配はいらん。あれ(・・)は死んではいないのだからな」


 メノンティウスはねめつけるような視線を送り、ガイウスの心中を推し量るように見つめた。


 ガイウスは、そんなメノンティウスの意思のある視線を感じたため、うっとうしく思いながらも心中を気取られまいとして、わざと猛り狂った。


「ふん!嘘をつくな!そんな嘘をつくってことはやはりカルラを殺したのは貴様ということだな!?」


 するとメノンティウスは狼のような尖った口を大きく開き、頭上に生やした巻角を震わせながら大きく笑った。


 そしてひとしきり笑い終えると口元を歪め、再び心中を探るような眼差しをガイウスに送りつつ言った。


「知っていたか……ガイウス・シュナイダー。カルラが実は死んでなどいないことを……」


「しつこいな。カルラを殺したくせしやがって!」


「へたな芝居はやめろ……そうか、あの猫か……やはりやっかいな奴だな……あれは」


 ここでガイウスは怒りの芝居を解き、反対にねめつけるような視線をメノンティウスに送った。


「ふん。シグナス同様、どうやら貴様もエルは苦手らしいな?」


 これにメノンティウスは苦笑いでもって応じた。


「まあ……な。神話上の生き物などというのは総じて厄介な存在なのでな」


「貴様だって、悪魔ならば神話上の生き物だろうに」


 メノンティウスは、このガイウスの言葉に一瞬だけ意外そうな顔つきを見せ、その後数度小さくうなずき納得したような表情を浮かべた。


「……なるほどな。やはり転生者の記憶というのは曖昧模糊なものなのだな」


「……どういう意味だ?」


 だがメノンティウスはそれには答えず、ただいやらしくにやにやとした笑みを浮かべるのであった。

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