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第百七十六話 悪魔の名

「……全然駄目だな。こんな火力じゃ日が暮れちまう。もう少し上げてみるか……」


 ガイウスはドームの天頂部に座り込んで、指先から発する炎によって天井に穴を開けようと試みていたものの、作業は難航していた。

 

「……と思ったところで……お客さんか?」


 ガイウスは途端に鋭い表情となって、後ろを振り返った。


 するとそこには、フードを目深に被った皺だらけの男が口元を歪ませながら中空に浮かんでいた。


「……シグナス。この中に俺の仲間がいるはずだ。出来ればとっとと開放して欲しいんだが、どうだ?」


 ガイウスは落ち着き払ってゆっくりと立ち上がってシグナスに正対した。


 対するシグナスは口元を歪ませたまま、ちろちろとした舌を出して舌なめずりをした。


 するとそれを見たガイウスが、いぶかしげな顔つきとなった。


「……お前……シグナスではないな?……誰だ貴様は!?」


 するとガイウスの詰問に、男は愉快そうに笑い出した。


「くっくっくっくっく。やはり人間の真似は難しいな。それにしても見破るのが早い。やるではないか小僧」


 男はそう言うと、途端に変化(メタモルフォーゼ)を開始した。


 それまで皮膚だったものが途端にどろどろに溶け出し、マントを伴ってぼとぼとと垂れ始めた。


 ガイウスは顔をしかめてその変化を見守った。


 すると中から、誰もが『悪魔』という言葉を連想するような姿形の異形が現れたのだった。


 ガイウスは案の定その異形を目にして言った。


「……悪魔か……」


 すると悪魔は全身から湯気のような蒸気を発しながら、その狼のように大きく突き出た口を開いた。


「ああ、いわゆる悪魔さ。だがやはりあまり驚いてはいないようだな?」


「いや、充分驚いているよ。これでも俺は悪魔には詳しいんだ。だけどお前は……知らない悪魔だ」


「くっくっくっく。そうかそうか。いやそうであろう。さもあろう」


 悪魔は実に愉快そうに笑った。


 するとガイウスは実に不愉快そうに顔を歪めた。


「……むかつくね。言い回しが癇に障るよ。お前」


「そうかね?それはすまんな。だがわたしは生まれてこのかた、ずっとこのような言い回しでね。特に改めようとは思わんね」


「何なんだお前。人間の真似が難しいとかさっき言っていたが、その言い回しといい、ものすごく人間くさいじゃないか?」


「それはお褒めの言葉かね。だとしたら嬉しいね」


「別に褒めちゃいないよ」


 ガイウスは冷厳な口調で突き放した。


 すると悪魔は心底残念そうな素振りを見せた。


「それは残念。わたしは昔から人間の研究をずっと続けているのだがね。なかなかにこれが難しい。かつては…………いやこれはやめておこう」


 悪魔は途中まで機嫌よく話していたものの、話の途中で突然に険しい顔つきとなって話を中断した。


 ガイウスはそれを見て、眉根を寄せて悪魔に問いかけた。


「かつては?……かつてがどうしたって?」


「くっくっくっく。まあいいではないか」


「いやあ、気になるよ。教えてよ?」


 ガイウスは底意地の悪そうな顔で突っ込んだ。


 だが悪魔はただ笑うばかりで応えはしなかった。


「じゃあさ、名前は?名前くらいは教えてよ」


 すると悪魔は細かく何度もうなずき、さも得心したといった顔つきとなった。


「ああ、それもそうだな。名前か……いいだろう。わたしの名前は……メノンティウスという……」

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