第百七十話 建物の中へ
1
「……マックスはどこへ……」
アルベルトは突然のマックスの失踪に驚き、言葉を失った。
皆も一様に困惑の表情を浮かべる中、ただ一人バランスだけが落ち着いていた。
「マックスが自分から消えるわけはない。おそらくこのドームに秘密があると思う。マックスが消えたと思われる箇所をみんなで探そう。ただし!バラバラでは駄目だ。ひとかたまりとなって探すことだ」
バランスのこの提案に、皆すぐさま同意した。
そして皆ひとかたまりとなってマックスが消えた辺りを隈なく調べ始めた。
するとジョディーが唐突に小さな叫び声を上げた。
「どうした!」
ジョディーの隣にいたバランスが、反射的に声をかけた。
「……壁が!……変なんだ!」
ジョディーはそう言いながら壁に手を当て、ゆっくりと押すような仕草をした。
するとその手が、ぬるっと壁を突き抜けたのだ。
「これかっ!この中にマックスは入ってしまったんだな」
バランスの言葉にアルベルトが疑義を呈した。
「しかし……いくらうっかり者のマックスでも、誰にも何も言わず一人で中に入るだろうか?」
「……たしかに。中から引っ張られでもしない限りそんなことには……ジョディー!手を引け!」
バランスが言い終えるより早く、ジョディーが今度は大きな叫び声を上げた。
バランスは咄嗟に腕を伸ばし、ジョディーの腕を掴もうと試みるも、それよりも早くジョディーの身体は建物の内側へと引きずり込まれてしまった。
「しまった!!」
バランスは歯噛みして悔しがった。
するとアルベルトが建物の中へ向かって大声で叫びだした。
「ジョディー!聞こえるか!返事してくれ!」
だが建物の中からはジョディーの声はもちろん、何一つ物音は聞こえてこなかった。
「……どうするアルベルト!?中に入るか?それとも……」
バランスの問いにアルベルトは即座に答えた。
「二人を置いてここを離れるわけにはいかない。かといってこの場でうろついていてはいずれ魔獣がやってくるだろう。なら……中に入るしかない!」
このアルベルトの決断にバランスは強くうなずいた。
他の者たちも同様に大きく首肯した。
「よし!一か八かみんなでこのドームの中に入ろう!」
2
「うわっ!」
アルベルトは暗闇の中、誰かに押されたような格好となり、つんのめって前に倒れこんだ。
「いってぇ……」
アルベルトは転んだ際にぶつけた膝頭をさすりながら、ゆっくりと目を開けた。
すると目の前には、ホテルのスイートルームを思わす、豪華な造りの一室に設えられたとても高価そうなソファーに悠然と座るジョディーとマックスがいた。
アルベルトが呆気に取られて二人の顔をしげしげと眺めていると、後背からバランスの声が聞こえてきた。
「ジョディーにマックス。無事だったか」
するとジョディーがおもむろに立ち上がった。
「ああ、あたしたちはな。だがアルベルトは怪我したみたいだぞ?」
ジョディーは吹き出しそうになりながらそう言った。
するとバランスは意外そうな顔つきとなり、アルベルトをその背中越しに覗き込みながら聞いた。
「そうなのか?アルベルト」
するとアルベルトは少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「い、いや……たいしたことはない。ちょっとぶつけただけだ」
そう言うと勢いよくアルベルトは立ち上がった。
するとバランスの背後から、ぞくぞくと仲間たちが建物の中へと入ってきた。
そのため、アルベルトはこれ幸いと話題を変えた。
「よし。みんな部屋の中央に集まろう。集まったら全員いるか点呼をとって確認しようじゃないか」
ジョディーは、そんなアルベルトの誤魔化す様を見て、ほんのわずか笑うのであった。
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